まっすぐに粋な味わい『鬼おろし』
はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは、『鬼おろし』をつくる(有)西田竹材工業所の代表取締役 西田大造さんです。通常のおろし器より、粗く歯ごたえ良く、野菜を瑞々しくおろす特徴をもつ『鬼おろし』。全国有数の竹林面積を誇る鹿児島県。その中でも、竹の産地として知られるさつま町でつくられた竹製鬼おろしの先にある想いやその背景とは・・・。
聞き手:田口(以下省略)
――さつま町産の竹を使い、熟練の職人の手作業でひとつひとつ丁寧に作られる『鬼おろし』。
認証品のお話をお伺いする前に、まずは西田竹材さんの事業を始められたきっかけのところから、お話をお伺いさせていただきます。
西田竹材さん自体はいつから始まったのですか?
昭和20年の、戦後からですよね。
もともとじいちゃんは宮崎県都城市の出身で、特に所縁があったわけではないけど、さつま町に竹があることを知って、ここに来て独立したと聞いています。
そこから西田竹材の事業を起こされたんだと。
都城で竹関連のお仕事をされていたんですか?
そうだと思います。
もともと戦前は箸、杓子専門で都城で仕事をしていたみたいです。
三重から都城、そしてさつま町へと歴史の繋がりが見えてきたのですが、さつま町で独立されたのはいつ頃になるのですか?
会社として創業したのが昭和20年で、法人化したのが昭和43年なので、創業79年になりますね。
約80年の歴史の中でおじいちゃん、お父さん、そして西田大造さんへと事業が受け継がれていかれたのですね。
そうですね。
ただ僕は、最初の就職先が愛知県だったので、愛知県で結婚して25歳頃の長男が生まれた時に帰って来てるんで、さつま町に帰ってきて13、4年ほどになります。
帰ってこられる前から家業を継ぐ話はあったのですか?
僕が帰ってくる前、会社には5、6人くらいしか従業員さんがいなかったんで、家業は継いでも継がなくてもどちらでもでもいいよっていう感じだったんです。
でも、夫婦ふたりとも身内が愛知県にいたわけではないし、親は事業が「忙しい忙しい」と言ってたから、帰って継いだらいいのかなって思ったんです。
もともと西田さん自身、竹での加工は経験されていたんですか?
全然全然。一切なかったです。
帰ってきてからできるようになりました。
そうだったんですか。以前、加工された商品を見せていただいたときに、すごい細かいところまでつくりこまれていて、それって簡単なことではないとは思っていました。
帰ってこられてから習得されたのはすごいことですね。
最初はもう見様見真似です。
何事もまあ2、3年いれば、ある程度はできるようになりますよ。
何百、何千種類と加工技術があるんで、それをうまく応用しながらです。
それに、細かな手作業のところは職人さんがいるからできることですね。
新たに会社を立ち上げてできるかって言われても、職人さんの真似はできないし、
結局は手作業だから、職人さんのおかげで会社が生き残っていると思います。
なにより竹専用の機械は売っていなくて、加工機は父親がつくっているので、仕事ができていると思います。
竹ってやっぱり木と比べても加工が難しかったりするものなのですか?
竹は、素材として堅いのが特徴ですね。
やっぱり一番の難しいのは、竹の形状が中が空洞でもともと丸いところですかね。
木は割いてしまえば板になりますけど、竹は板にはならないので、そういう加工をしようとすれば、木よりはある意味難しいのかなと思います。
もちろん木にもその難しさがあるんですけど、竹と木はちょっとやっぱり違うのかなっていう。
その竹を使って、西田竹材さんではたくさん加工品をつくられていますよね。
たくさん色々な加工品がある中で、なぜさつま町でつくり始められたのか気になっていたのですが、きっかけなどあったのですか?
うちで鬼おろしを製造するきっかけとなったのは、ご依頼いただいた会社がもともとの製造を東北地方で行っていたようなのですが、製造できなくなってしまい、その後別府の方で取り扱いをしていたようですけど、そこを経てうちに「作れませんか」という話が来たのが鬼おろしづくりの始まりなんです。
実際、鬼おろし自体は、父の頃からつくられているので、製造を始めてから20年ほどです。
うちでは鬼おろしの独自開発もしていますが、それ以上にもともとつくられていたものが、つくられなくなっているというのが一番の現状です。
産地がどこかも大事ですが、まず、製造できることが一番になってしまうんです。
この竹加工の業界自体は、全国に10社もないんじゃないですかね。
めちゃくちゃ貴重じゃないですか。
それだけ淘汰されてしまっているのも現状なんですよ。
でも、その中、やっぱり必要とされているのって、西田さんならではの技術があるからなのではと思います。
国外産の加工品も多いと思いますが、西田竹材さんのものと比べて加工技術とか、原料の質とか違いはあったりするですか?
原材料の質を含めて多少の違いはあるかもしれませんが、基本的に大きな違いはないと思います。
国外であっても、どこも努力をされていると思いますし。
ただ、国外産はほとんど機械化されているのでロット数が大きい分、うちは小ロットでも加工できるのが強みなのかなと思います。
今は問屋さんに卸しているものが多いのですが、国産は輸入品よりも値段が高くて売れなくなっちゃうんで、「職人さんの手作業」とか「国産」とかは問屋さんは謳ってないですね。
ただ、これから物価があがれば、卸だけには頼れないのかなって。
なので、これからはプライベートブランド化も視野に入れたいなと思って動いています。
中間業者さんや問屋さんとか、価格って市場の影響をすごく受けますよね。
今後は卸もやりつつプライベートブランドみたいなのも、ちょっとずつ展開をしていきたいお考えがあるんですね。
そうです。
まぁ、タイミング的には今がたぶんいいタイミングだと思うんですけどね。
それこそ認証品の鬼おろしって、西田竹材さんブランドの商品だと思っていたのですが、これまで卸としてお客さまのためにつくられていた鬼おろしを、薩摩のさつまの認証品として出そうと思われたきっかけってあったのですか?
薩摩のさつまのセミナーに行って何を認証品にしようと考えたときに、ものとしては実際売れてる商品だし、見た目としても特徴的なのがいいのかなと思ったんです。
世にある他の鬼おろしは歯の皮目を削っているんですけど、すりおろしたものがその分細かくなってしまう。
だから、うちは皮目を残して、ゴロゴロとすりおろせるように昔の姿のままを残しています。
昔から変わらない姿で完成された形ということですね。
この形が、昔ながらで、ずっと形を変えずに愛され続けているものだから、美味しさも使いやすさもあるのかなと思って。
それは消費者側からすると、「昔ながら」ってちょっとキュンとするかもしれない。
丁寧な暮らしっていうのを考えた時に、どういう人がつくっているのかとか、歴史を感じるものを使いたいっていうのもあるし、家に置いておきたくなる、心がなんかくすぐられる感じがありますね。
ホームセンターには置いてない、あったとしても他のものとはやっぱりちょっと違いますよね。
おろし歯のつくり方もこだわっています。
そのこだわりは立派な技術があってこそだと思います。
ちなみに竹自体は、どのように仕入れているのですか?
竹が自然と生えてくる土地を持っている人から提供いただいて従業員が切って運んで来ています。
竹林は荒れていることが多いので、喜ぶ方が多くいらっしゃいます。
「切ってくれるだけありがたい」的な、綺麗にもらえるということで。
使っているのは、さつま町の竹なのですか?
基本はそうです。あとは県内の別の地域からも仕入れさせていただいています。
放置竹林は、景観や環境にも課題ととして取り上げられていますよね。
そもそも持ち主が分からないとなったら別問題ですけど、竹林の持ち主としては買ってほしい、西田竹材さんとしたら材料として手にいれられるっていうところで、環境保全というか、そういうことにも繋がったりしているんじゃないですか?
そういった側面はあるかもしれませんね。
それこそ竹を切ったら町から補助が出たりもするんですよ。
環境保全のためにという想いもあると思うのですが、結果的に、未来の、田舎の田園風景を守ることや環境保全につながりますね。
薩摩のさつまもさつま町の未来に向けて、次世代支援をさせていただいています。
西田竹材さんとして、次世代に向けた想いなどお聞きしたいですが、いかがでしょうか?
やはり、気になるのはさつま町の出生率ですね。。
さつま町では、2歳児健診と3歳児健診で、竹でつくったスプーンやフォークをお渡ししているんですけど、そこで製造数量を聞くもんだから、出生の人数がわかるんです。
もちろん外からも人が来る町になればいいなって思いますけど、ただ人がいなかったらどうしようもないですよね。
うちの子どもが中学生なんですが、学校の人数は150人かな。でも、今の3歳児は50人くらいですから3分の1じゃないですか。
たった10年でこんなに変わるんですよ。
そうなのですね。場所によって違いはあると思いますが、日本全体を見ても今後100年は人口が減少をすると言われていますからね。
ちなみに、例えばUターンで戻られようとされた時、”故郷”を意識されたことはありましたか?
まあありますよね。
田舎の方が子育てしやすいだろうなとか。
自然も場所もありますし、自由にのびのびできますよね。
例えば、子どもたちが泥だらけになれるとか、そういうことってすごく大事ですよね。
これが景色だしみたいな。
ただ、町内で子育てをとは言いつつも、トイレに小さい子用がなかったり、赤ちゃんはベビーカー持ってかないといないし、公共の施設でも、子どものため設備が少しでもあったらうれしいと思っています。
それがあるかないかで結構子育てのしやすさが変わってくると思うのですが、それって子育てをしている家庭のリアルな声を集めていただけることから、見えてくる「子育てのしやすさ」に繋がるのかなと思います。
そんな拠点が何か所かあれば、お父さんやお母さんは安心して出かけられるかなと。
そういう声が見える化されることで、具体的な改善方法に繋がるかもしれませんね。
産後のお父さんやお母さんにとっては日常がハードなので、常に助けあいができると良いですよね。
小さなことかもしれませんが、そういったことがあれば、お父さんやお母さんの行動範囲が広がるなって。
ごはん屋さんのマップもあるけど、座敷があるかどうかが分からなかったり、トイレのマップや子どものおむつが変えられるかどうかとか、、そういった情報が出かけやすさと過ごしやすさに繋がって、生活のしやすさにもなるのかなと。
聞かせていただいた言葉は、具体的かつより良い未来への第一歩になると感じました。
そういったお声を聞けたのは私にとっても新鮮なことで、お聞きすることができて良かったです。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
※取材/撮影:田口佳那子(さつま町地域プロジェクトディレクター)
取材:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)
認証品のご紹介
(有)西田竹材工業所『鬼おろし』
さつま町産の竹を利用し、刃物を作り、持ち手にはヒノキを使用したおろし器です。主に大根などの野菜を擦り下ろす事ができます。通常のおろし器より粗いおろしができ、歯ごたえが魅力です。
一.肉厚で建築や農漁業用資材としても利用されているさつま町産の孟宗竹にこだわり、地元の竹切り職人が厳選した良質な竹を材料として使用しています。
二.昔から変わらない伝統的な形状を現在にも継承し、おろした食材は、歯ごたえがあり、空気を含む口当たりが柔らかく、水気が少ないことが特徴です。
三.竹の取り扱いを熟知した職人による加工技術と製法により一つ一つを丁寧に作っているため、手作りの温かみと自然に育まれた素材の表情が生活を彩ります。