心満ちて笑顔咲く『塩こうじ』

地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは、『塩こうじ』をつくるさつま糀商店を営む淵之上圭介さんと美恵子さんのお二人。特に今回は美恵子さんを中心にお話をお聞きしました。
糀に真摯に向き合い、丹精込めてつくられている『塩こうじ』。二人三脚で営む塩こうじづくりの先にある想いやその背景とは…。

※インタビューは美恵子さん(妻)を中心にお話させていただいています。圭介さん(夫)のお声には「(圭介さん)」の記載をさせていただきます。


聞き手:田口(以下省略)
――最近、店名を「北原こうじ店」から「さつま糀商店」に変更されていましたね。こちらのお店はいつから始められたのでしょうか?

お店自体は主人の父と母の時代に始まったのですが、二人とも高齢になったので、今は私たちが引き継いで2代目になります。
もともとご縁があって、主人は過去にさつま町の焼酎蔵である小牧醸造さんで働いていた期間もあったので、そこで得た麹仕込みの知識を活かして、義父と義母のお手伝いをしていました。

美恵子さんが加わったのはいつ頃からになるのですか?

義父と義母から引き継いだ後は、担い手が主人しかいなかったことと私自身が「食べること」「食に関すること」に興味があったので、「食に関してもっと周りの方の意識が広がったらいいな」と思って令和元年(2019年)から本格的に加わりました。

たしか農業大学校へ行かれたともお聞きしました。学校で学ばれた時期も令和元年頃なのですか?

そうですね。私たちが本格的に引き継いで2代目になった時に農業大学校に通いました。

夫婦二人で学んでね。面白かったですよ。
二人で「まさかこういう日が来るとは思わなかったね」って言いながら過ごしていました。

さつま糀商店さんでは塩こうじだけでなく、ほかにもさまざまな商品をつくられているので、二人体制なのは心強いと思います。
お二人でお店を経営する秘訣などありますか?

圭介さんのもともと勉強熱心でマメな性格もあって、技術をどんどん習得していきました。糀に真摯に向き合っているからこそできているのかなと。

―(圭介さん)同じように見える工程でも、その時々に向き合い方が変わってくるから、毎回初心に帰るような緊張感を楽しんでいますよ。

作業場を少し見学させていただいた際に、とても細かく温度変化のメモをとられていることに驚きました。並大抵の努力がなければできない職人技のように思います。とても綿密にデータ取られていましたね。

―(圭介さん)昔、身につけた米麹の管理技術が根底にあると思います。
私が今も、米糀づくりで行っているような夜中2時間おきに見に行くのも、そのころ学んだ方法です。

彼なりに毎日が新しい仕事になる感じというか、毎回毎回が同じではないというのを感じてますね。「今回の米糀はこうだった」「ああだった」とか言ったりしています。

温度管理は夜中であっても数時間おきに…。綿密な管理下のもと製造されていました。

毎回、「初心に帰る」に近いものを感じますね。

そうですね。
毎日同じことを同じようにしてるつもりなんだけど、湿度や外気温の変化もあるし、米糀は生き物だし、なんかやっぱ違うねと。実際温度の効き方も違ったりしますから。

製造内容は同じことの繰り返しだと若干マンネリ化してしまう部分はあると思うのですが、圭介さんは違うんですよ。
何かあったら理由を突き詰める研究熱心なところがあります。

圭介さんのマメさに、美恵子さんの想いや努力があってこそ、商品がうまれているんですね。お二人の良いバランスがあるから美味しい商品たちがうまれているんですね!

日々のスケジュールは糀に合わせて。自宅で使うカレンダーでも日々管理されていました。

認証品の塩こうじは、お父さんとお母さんから引き継いだ時には既に商品としてあったものだったんですか?

義父と義母の頃からですね。過去に発酵ブームがきて、義父が「自分で塩こうじをつくって使ってみたかった」というのが塩こうじづくりのはじまりと聞いています。

お義父さんのお料理好きが高じて塩こうじをつくることになったんですね!

それまでお店では、甘酒と味噌と米糀をつくっていましたが、発酵ブームでお客さんも塩こうじに注目されていたからつくり始められてよかったです。

お客さんからも「体の調子がすごくいいのよ」とか「髪の毛にツヤが出てきた」「便通が良くなった」とか、体の調子がよくなったというお話をいただけるのは嬉しいですね。

私も当たり前のように食べていたけど、糀の良さっていうのを改めて今の仕事を通して感じています。

塩こうじって、健康にいいし美味しいし食材の味も引き立ててくれますし、まさに万能調味料なのではないかと思います。

若いママさんが「離乳食に使いたい」って言ってくれたんです。
糀を必要とする方々がご年配の方だけではなく、若い方たちも来てくれるようになってきたのはすごく嬉しい。

「みんなが健康になってくれたらいいよね」ってそんな図々しいことは言えないんだけど、私だけ健康になりますじゃなくて、みんなで健康になろうみたいな、そんな雰囲気があるといいな。

私たちは、前に出るつもりはないし、スポットライトを浴びるつもりもないんです。

毎日毎日の繰り返しは、地味でけっして華やかな世界ではないけれども、でも、昔からあったものですからなきゃ困るっていう。塩こうじってそんな存在だと思っています。

まさに縁の下の力持ちですね。
そんな塩こうじですが、薩摩のさつまの認証を得ようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

認証品として登録することでもっとたくさんの方へ塩こうじを知ってほしいということが一番ですね。
みなさん忙しいこの時代に、手軽に使えて健康にも近づけますよっていうのを伝えられたらいいなって。

想いがとても伝わってきます。
さつま糀商店さんの塩こうじって、加えると甘みが増しますよね。
ここならではのこだわりはありますか?

うちの塩こうじは、水と米糀と塩だけ。シンプルなものでできていることが一番のポイントです。みなさんが言ってくださるように甘みがあるのが特徴の一つですね。

米糀は自家製でシンプルにつくっていて、米も塩も国産にこだわっています。

シンプルなものでつくられているからこその旨みなんですね。

淵之上さん夫婦は塩こうじをつくる際、夫婦喧嘩はしないとお聞きしたのですが、塩こうじづくりと何か関係あるのでしょうか?

糀菌も生き物だから「怒ると糀菌の発酵が止まる」と聞いたことがあったので、塩こうじを作る期間は子どもを育てるかのように夫婦でお互い穏やかにいます。
だから愛情を込めたら込めただけ、仕上がりのいい塩こうじができますよ。

なにより楽しむことが大事です。
みなさんの美味しく楽しい空間の一助になれたら嬉しいですね。

ちなみに、「こうじ」って漢字で表現するときに「麹」と「糀」があるじゃないですか。
さつま糀商店さんでは、どうして「糀」の字を使われるんですか。


「糀」は日本発祥の漢字で、「麹」は中国から伝わった漢字なんです。
米を入れた米こうじをつくっているからというのと、発酵時に米に花が咲いて米こうじができるという表現なので「糀」を使おうとなりました。

「糀」にはそんな意味が込められていたんですね。

事業所名にも「糀」という漢字が使われていますが、以前の「北原こうじ店」という事業所名から「さつま糀商店」へ名前が変わったのは、なにがきっかけであったんですか?

引き継いで私たちが中心になったことが一つです。
義父と義母から「あなたたちの思うようにしたらいいよ」と声をかけていただいたことも一つ。
薩摩のさつまの認証を得られたことも理由の一つですね。
認証を受けて、ひらがな「さつま」を名前に入れました。

そうだったんですね!それは薩摩のさつまとしても、とても光栄なことです。

さつま糀商店さんの「糀」ですが、薩摩のさつまで掲載させていただいている紹介文にも「一日一糀」という記載がありますね。
私、この文言がとても好きなのですが、ここにはどのような想いが込められているのですか?

味噌汁飲むもよし、塩こうじを使った料理を食べるもよし、甘酒飲むもよしみたいな感じで、何かしらの発酵食品を一日一回摂ると身体が変わっていきますよっていわれているんです。

本当に身体が求めているものなのでしょうから、「一日一糀」摂っていただくことを広めていきたいなという想いを込めています。

一日一糀を謳うことで、みなさんの健康を想う美恵子さんの気持ちが伝わってきます。

薩摩のさつまも次世代支援を通じて、さつま町の未来に向けた取り組みを行っています。その”未来”という今後に対して、さつま町や子どもたち、その他のことでも結構ですが”想い”などありましたらお聞きしたいです。

大きなことは言えないのですが、みなさんには自然に笑顔が出るような、笑える人生を過ごしてほしいなって、さつま町がそういう環境であれたらいいなって思います。

やっぱり笑っている人と話したいじゃないですか。
そういう環境を塩こうじを通してみんなの健康を支えることでつくっていけたら…。

さつま町に住んでいる人たちも笑って過ごせる日々があったらいいなと思いますし、町外に出ているさつま町出身の方たちも、行き詰まることがあるとしたら、そんな人たちにとっても還る場所であれたらと思います。

さつま町が、みんなにとってあたたかくて、元気もチャージされるような、癒されるような、そんな町であったらいいな。

その想いが、「発酵食品でみんなを支えたい」というさつま糀商店さんの想いにも繋がっているように感じます。
実際にさつま町に来て、たくさんの食に触れて、心が洗われる感覚がある。さつま町にはほっとする瞬間がすごくたくさんありますよね。

さつま町は景色も綺麗だし、美味しいものも溢れていますよね。
どんな時も食べることが一番ですよ。

体調崩した時なんかは、鹿児島弁で「めし(飯)としゅい(汁)を食わんね」なんて言いますよ。
ご飯と味噌汁のことなんですが、「とにかく飯と汁をくっちょればいいんだが」って。昔からそんな言葉を聞いてました。

「めしとしゅい」、鹿児島にはそんな言葉があったんですね。
昔からごはんを食べることが大事なこととされていたのだと想像できます。
素敵なお話をたくさん聞かせていただいて、本当にありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

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