竹取の里の営み『たけのこ水煮』
はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは、『たけのこ水煮』を作る有限会社 北薩農産加工場の 今西 康輔さんです。
竹林面積日本一を誇る鹿児島県の中でも、有数の竹の産地であるさつま町。竹取の里で地域資源を活かした事業を地元で親子3代に渡り加工業を営むその背景とは…。
聞き手:青嵜(以下省略)
――さつま町で農産加工を営んでいる有限会社 北薩農産加工場さんの認証品『たけのこ水煮』。その認証品のお話を伺う前に、ここさつま町で事業を始められた経緯からお伺いできますか?
創業者である祖父が脱サラをして鹿児島市内に小さな青果店を始めたのがもともとのきっかけだったそうです。
その青果業をする中で、当時鹿児島市内に第一工場があった鹿児島中央青果株式会社から第二工場を作りたいとの相談をいただいて、原料の豊富な宮之城に誘致を行おうとしたが叶わなかったため自分で原料集荷及び加工場を作ることにしたそうです。
ただ、祖父の地元であるこのさつま町への熱い思いがあり、特産品であるたけのこを活かし地元の人達を雇用することでささやかなる地域貢献、恩返しができればという想いで起業したと聞いています。
――今西さんも新社会人からこちらで働かれていたのですか?
私はもともと大学4年間を東京で過ごしていたのですが、卒業後は鹿児島にUターンして別の会社で働いていました。
ただ、4年前に創業者である祖父が突然亡くなり、祖父が創業したこの会社を父が受け継ぎそれをずっと守ってきている姿を見て私もそのバトンを受け継ぎ、守っていきたいと思うようになりこの会社に入ることを決めました。
――鹿児島市での商いがきっかけで原料集めの依頼から加工場の創設に至ったというお話ですが、もともと青果市場には加工場があったともお聞きしました。市内から遠いさつま町に加工場を作ったのはなぜですか?
たけのこは鮮度が命であり、収穫してから加工するまでの処理が早い方が良質な商品を作ることができるということもあり産地であるこのさつま町に設立したそうです。
青果店を始めたのが昭和34年で、加工場を設立したのが昭和51年と聞いているので、加工場自体は今年で47年になりますね。
――たけのこは春頃が旬だと思うのですが、その時期に収穫されたたけのこの加工作業が最盛期を迎えるのですね。
たけのこは春が旬で、3月末から5月が一番の繁忙期になります。
加工場としては、1年分の原料を確保するのでこの時期は特に忙しくなりますが、それ以外の期間も、仮製品の本製品化の作業やカット作業、パック詰め作業など年間を通じてたけのこの仕事を行っています。
近年は、社会的にも夫婦共働きの世帯も増えていますから、袋を開封してそのまま使用できる便利な商品、すでにカットされている商品の需要が高まっていますね。
カット作業は機械でカットできないものも多いので、たけのこの形や大きさに応じて様々な形状に手作業でカットしているんです。
また年末はパック商品の一番の需要期になるので、作業はパック詰めが中心になります。
食べ方も、煮物やたけのこご飯などの和食だけではなく、パスタやグラタンなどの洋食、青椒肉絲や春巻きなどの中華料理と様々な料理に合うこともあって、全国の量販店や学校給食など幅広く販売させていただいています。
――竹の子の鮮度を保つためにさつま町に加工場を創設されたというお話もありましたが、品質の良い商品を作るためのこだわりとしては、どのような点があるのでしょうか?
原料を仕入れ時期には、鮮度の良い良質のたけのこを厳選して、蒸気加熱製法でボイルしています。
お湯で茹でるのではなく、蒸気で蒸し上げることで風味を閉じ込め旨味を逃がさず美味しく炊き上げることができます。
また、自然に恵まれた竹林と、その産地の中に工場があることで鮮度が良い掘りたてのたけのこをその日のうちにボイルすることができます。
鮮度を落とさないように早期ボイルを行うため、一日中夜も交代でボイル処理をしているので、新鮮な鮮度でのボイル処理を行っています。
たけのこは鮮度が良いことを第一に、JA北さつまを中心に買い付けをしているので良質なたけのこをボイルし、pH調整剤などの添加物は一切使わず肉質も柔らかく風味豊かなたけのこに仕上げることができています。
一般的にはクエン酸を使用してpH調整を行っていますが、私たちはpH調整剤を使用せずたけのこ本来の自然な乳酸菌発酵でpH調整を行っております。
竹の子の自然な乳酸菌発発酵で調整して、保存状態が良く一番美味しく感じられるpH値にこだわっています。
――学校給食として子ども達へも地域の特産品が届いているのですね。
薩摩のさつまには次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれているので、その流れで未来の話についてもお伺いさせてください。
その”未来”という今後に対して、さつま町や子どもたちがどうなってほしいといった想いはありますか?
未来へ繋ぐ想いという意味では、創業者である祖父も地元であるさつま町のささやかなる地域貢献を掲げて創業しているので、その想いを父も受け継ぎこの会社を繋いできています。
私自身もこの想いをしっかりと繋いでいきたいという想いがありますし、それが結果として地元の活性化にもつながったら嬉しいです。私も大学で鹿児島を離れ、改めて故郷の良さを再認識しました。
ですから、こういう事業をやっていることで、故郷と繋がっていけばいいかなと思うので、私たち自身が頑張ることが地元へ還元することにも繋がると思います。少しでも自分の生まれ育ったこの鹿児島を盛り上げることができたらと思っています。
それに、なによりも私たちの工場があるこのさつま町が竹の子の産地だということが何より大きいですね。
例えば、紙の原料も竹でできていたり肥料や家畜の餌になったり、すごくいい循環しているモデル地域でもあるので、そこを含めて今後継続して頑張りたいなと思っています。
ただ、一方で、地域に関しては、僕も含めて若いから住みたい地域もあるんだと思うんです。
父もそうだったと聞いていますが、でも振り返るとやっぱり地元の良さっていうか、実際に県外で暮らすとなると今まで鹿児島は田舎だからって思っていたようですけど、でも空気が美味しい水が美味しいとか本当になんでもないことが実は特別で、その故郷の良さっていうのを再認識したそうです。
そういう意味では、自分を含めてやっぱり若い世代が、故郷で地元のもの使って地元で事業することで、それが巡り巡って地元の良さに還ってくることに繋がると思うんです。
薩摩のさつまもそうだし、町のにぎわいづくりとかまちづくりっていう言葉こそあるけど、地域の生業を頑張ることが結果的に町のためになるし、それが本来のまちづくりなんじゃないかなと。
――私も同感です。去年さつま町に移住をして作り手の方のお話を聞いていく中で、”地域に根付いた生業がまちの未来を作る”というビジョンを肌身で感じていますし、その活気によってまちが変わるというか、そんな絵を想像しています。
それが創業から3代に渡って今に至るお話なのだとなとお伺いする中で、勝手ながら感じました。
今日は貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)
認証品のご紹介
有限会社 北薩農産加工場『たけのこ水煮』
鹿児島県は全国一の竹林面積を有しておりさつま町はたけのこの優良産地となっています。新鮮なたけのこを吟味厳選し新鮮な原料を蒸気加熱製法で早期ボイル処理加工し、品質・味に自信のある水煮を製造しています。
一.当日収穫されたたけのこを新鮮な内にボイルし肉質の柔らかい水煮を製造しているので風味がよく品質に拘った商品に仕上げています。
二.たけのこ本来の風味を残すため、pH調整剤は使用せず自然な乳酸菌発酵させているため、自然食品となっております。
三.たけのこ水煮を調理しやすい形状・大きさに丁寧に手作業でカットしたものを真空パックし、加熱殺菌をしております。
ホームページ