風景ができるまで『さつま黒もち』

山崎農場 山崎博文さん

はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは、『さつま黒もち』を作る山崎農場 山崎博文さんです。

通常の白米よりも手間暇がかかり、作り手も少ないという黒米を作る山崎さん。日本食を語る上で外すことができない米文化。そして、当たり前のように広がる田園の風景。
地元の田畑を荒れさせない、荒れさせたくないというその想いとは…。

 


聞き手:青嵜(以下省略)
――さつま町で米農家を営んでいる山崎農場さんの認証品『さつま黒もち』。もち米である黒米のブランド名称になりますが、その認証品のお話の前に、まず山崎農場さんがされているお仕事のお話を伺えますか?

うちの作物のメインはお米になるんですけど、ヒノヒカリ、あきほなみ、なつほのかという3種類の白米と認証品で出している黒米を作っています。
お米以外では大豆と麦も作っていますね。

麦は、小麦、大麦それぞれあるんですけど、小麦はさつま町の物産館でまかなえる分だけの少量しか作ってないのですが、大麦はお米と一緒に混ぜて炊く用のもち麦なのですが、鹿児島市内を中心に他の県内各地の物産館に出荷しています。


――山崎農場さんはいつから農業をされているのですが?

もともとは私のおじいちゃんの代から始めたように思います。
それ以前のことは分からないんですけど、最初はお米ではなくトマトを作っていたようで、規模の小さい農家だったようです。

それから徐々に作物をお米にシフトしていったようですが、その頃は、お米を作ればどんどん売れるような時代だったみたいで田んぼを確保するにも苦労する程だったみたいなんです。

なので、始めた当初は面積も少なかったようなのですが、年を追うごとに徐々に設備も増やして農地も増やしていって今に至るというところですね。

――基本的な質問になってしまうのですが、お米作りというのは年間通してどういった工程があるのでしょうか?

うちが作っているお米の内、普通期米と呼ばれる通常のものがヒノヒカリとあきほなみの2種類なのですが、だいたい6月の始め頃に種を蒔いて、6月終わり頃から順次田植えをします。

その後、苗が育って稲穂になるのですが、最終的な収穫は10月中旬から始まって11月中旬くらいまでやりますかね。

それに対して、なつほのかという早い時期のお米(早期米)は、2月中旬頃に種を蒔いて、3月の中旬から後半あたりに田植えが始まり、8月のお盆前後が収穫になります。

黄金色に輝く通常のお米の稲穂。収穫時期の美しい光景。

認証品の黒米も普通期のお米と同じ6月くらいに田植えをして、10~11月に収穫するサイクルです。

その収穫したお米は籾すり(籾殻を取り除く作業)をして玄米にします。そして、玄米を精米することで米が出来上がります。


――黒米も時期としては同様のサイクルとお伺いしましたが、白米を数種類作られている中で、黒米を認証品として登録された理由を教えていただけますか?

全国的にみても黒米の品種って多くはないんですけど、黒米に名前がついているのは鹿児島県独自のブランドで、この「さつま黒もち」だけなんです。

そもそも、黒米の収穫量自体が全体的に少ないのですが、なんで他の農家さんが作らないかというと、通常のお米に比べて手間がかかるのと設備の追加が必要になってくるからなんです。

黒米は米自体が真っ黒に近い状態なんですけど、収穫して乾燥し籾すりを行った後に米を見てみると、粒が割れていたり、黒い色がしっかりと乗り切ってない米粒が多いので、商品にする上で、そういった米粒を除去していかないといけないんです。

そのために選別機にかけるんですけど、そういう設備の導入に費用が掛かってしまうということと、作業時間もそれなりにかかるので、その2点が主に黒米を作る上ではネックになってくるところがあります。

もちろん、除去した黒米も食べる分には全然問題ないのですが、綺麗に黒く揃った商品として提供するためのこだわりとしては必要です。

通常の白米も異物が入ってないか、割れたお米がないか等の作業は行うのですが、黒米は同じ作業でも倍以上の時間がかかってしまうんです。
その分だけ自信をもってご提供しています。

ちなみに、県内でさつま黒もちを作っているのはうちを含めて2軒程なのですよ。

認証品『さつま黒もち』


――こだわりをもって作られている希少性も高い黒米ですが、食べ方としてはどういったものがおすすめですか?

食べ方としては、基本的には1合の白米にスプーン一杯(5~10g)を入れて炊くのがおすすめです。お好みの量を入れていただくのが一番ですが、それぐらいの割合で入れていただくと十分に黒米の色が出せますね。

――白米に混ぜて炊くことで取れる栄養素としてはどんな特徴があるのですか?

特徴的な成分はアントシアニンですね。
ブルーベリー等に含まれるポリフェノールの一種で、近年では健康に寄与する機能性物質として注目されているようです。


――高く健康面でも注目されている食物なのですね。

作り手の方が限られるというお話でしたが、薩摩のさつまの認証品としてぜひ引き続き作り続けていただきたいです。

さて、その流れで未来の話についてもお伺いさせてください。
薩摩のさつまには次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれています。その”未来”という今後に対して、さつま町や子どもたちがどうなってほしいといった想いはありますか?

どの地方も同じ課題を抱えていると思うんですけど、田んぼや畑の条件が悪いところは特に担い手がいなくて荒れ果てて耕作不能になっているところが多くて、農業委員会でそういう条件の悪い田畑を非農地にしていく作業をしているんですけど、一方で条件の良い田畑でも後継者がいないので荒れていってしまうんです。

なので、自分が農業を続けていく限りは、なるべく荒れ地を増やさないように耕作できるところはやっていきたいなと思っていますし、耕作してほしいという依頼があれば引き受けたいなという思いではいますね。

地元の田畑を荒れさせない、荒れさせたくないという思いでやってます。


――たしかに、田畑は農家さんにとって農作物を作る場所ですが、それ自体が景色の一部になっていて、この田園風景を作っているわけですよね。

里山ではないですけど、人と自然が共存して景色が作られていて、しかもその光景が大昔から続く日本の食と景色を支えていること、もしかしたら日本文化の根底も支えていることにも繋がるようにお話を伺いながら想像しました。

田畑の維持の問題も、食糧自給率が今の半分ぐらいになればまた環境も変わってくるんでしょうね。

この黒米を通じて…なんて言ったらいいかな。
もっとお米を食べていただけるような、そういう環境作りの一環になればいいなと思っています。それに、米離れっていうのはまだまだ続いていると思うし。

――米離れっていうのは、食文化の変化にもなるのかなと思います。
それに、お米だけの話じゃないと思うんですね。それって多分、そこにある食事自体が変化してから結果的にお米にも影響があるということなのかなと。

生活スタイル自体が変化していますもんね。

手早く簡単に、効率的なところばかりが求められていると思うところがあります。

急にそれを変えるというのは難しいでしょうけど、一度、食事自体の在り方に立ち返るというか、そこへお米をはめ込んでいくのかができればと思います。


――とても興味深いお話ですね。食文化の変化と生活スタイルの変化は豊かさに対する価値観の変化にも繋がるように想像します。

例えば、今の生活スタイルが効率よく手早いことが求められるのであれば、それは価値観の表れなのだろうと。
もちろん、それは時代の影響もあると思うので、一概に良し悪しとして分けることではないと思います。
でも、暮らしに豊かさを求めたときに、何に対して豊かさを感じるかということなのかなと。

稲刈りの最中に餌をもとめて飛来した鷺。


――私は、2022年の7月にさつま町に移住して、生まれてからずっと触れてきた「食」ということに対して、知らないことが多いことに改めて驚きました。

それと共に、それを「知る」ことができることに豊かさを感じています。
今までよりも生活の先にあることをイメージして楽しめるようになったというか…。まだまだ知らないことが多いので、知ったようなことは言えないんですけど。

それをどこまで日々の生活の中で感じているかと言われると、毎日は難しいところもありますが、例えば週末だけは少し手間暇かけて食事を作ろう、丁寧に暮らしをしてみよう、ものごとを整えてみよう。
食事に限らず、ちょっと丁寧に時間を過ごしてみよう。

そんな価値観の中で、食事を通して田園の風景にも想像を巡らせる・触れる機会になると良いなと個人的に感じるところがあります。

そうですね。ちょっと手間暇かかるかもしれないけど、食べ物というか、生活スタイルというか、そこを見つめ直すきっかけになるといいかもしれないです。

食育とかそういうところにも関係すると思うんですけど、そういうのにもう1回目を向けてもらえるような。

個人だけの力ではなかなか難しいかもしれませんが、この薩摩のさつまを通してそういうことにも一役買っていけたらいいなと思っています。


――作り手のみなさんのこだわりや想い、商品の背景を知れば知るほど、その商品の向こう側にある風土としての空気感や歴史を感じます。

お米という商品を通じて、僕ら日本人が歩んできた道のりと、これからの向かう先、それこそが次世代へ伝えるべきことなのかなと勝手ながら感じてしまいました。

今日は貴重なお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)

薩摩のさつまロゴ認証品のご紹介

山崎農場『さつま黒もち』

山崎農場『さつま黒もち』

さつま黒もちは、鹿児島県農業開発総合センターにて育成・品種登録された鹿児島県独自の黒米ブランドです。玄米より栄養価が高く、プチプチとした食感が特徴で、冷めても美味しいのでお弁当にも最適です。

一.さつま黒もちに含まれるアントシアニンには、動脈硬化を防ぎ活性酸素の増 加を抑える抗酸化作用や、髪や肌を若々しく保つアンチエイジングにも作用します。

二.さつま黒もちは、色の発色が濃く粒が大きく形が整っていて、ご飯に少量加えるだけで美味しく召し上がれます。

三.黒米専用の大容量色彩選別機を使用して、短時間の間に割れた米粒や不良米等を除去し、高品質で安心安全な黒米を安定的に提供します。

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