梅香る丘での飽くなき追及「さつま南高梅はちみつ漬」

地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは、『さつま南高梅はちみつ漬』をつくる農事組合法人 梅香丘の代表理事 松下光洋 さんです。
県内でも梅の産地として知名度の高いさつま町。独自の研究で、どこにも負けない味を求めてきた梅干しづくりの先にある想いやその背景とは・・・。
(※写真は梅香丘さんにご提供いただき編集を施したものになります。)

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聞き手:青嵜(以下省略)
さつま町で梅の生産から加工までを行う”農事組合法人 梅香丘”の認証品『さつま南高梅 はちみつ漬』。まず認証品のことをお聞きする前に、普段されているお仕事について教えていただけますか?
元々は梅の栽培から事業を始めているのですが、梅は花が咲くのが例年2月過ぎからで、6月上旬ぐらいから青梅の収穫が始まって、その後、だいたい7月10日くらいまで加工用の完熟梅の収穫を行います。
うちの商品は、南高梅の完熟梅を100%使用しているので、黄色く熟した梅の収穫が終わったら、次は加工の工程が始まりますね。
加工の工程としては、まず収穫した梅を30分くらい虫対策として水に漬けておきます。
その後に、20%の塩に約1カ月くらい漬けて、漬け終えた梅を土用干しします。
加工の際に実崩れしないように、ビニールハウスの中で表面を3日間、ひっくり返して裏面を2日間ぐらい天日干しをして乾燥させます。
乾燥を終えた梅をA品、B品、C品、外品に選別して、それぞれ10キロ樽に詰めて大体1カ月以上貯蔵します。
貯蔵した後は塩抜きをして、今度は塩抜きをして調味加工に入ります。
塩抜きは、塩分のパーセントによっても違うんですけど、その塩分を測りながらだいたい3時間とか、4時間くらい行います。
それから、調味液にそのまま漬け込んでいくわけで、最後は調味液から梅を取り上げて、ドリップ切りをして、パック詰めをして出荷する形になります。

土用干しを行い塩抜きした後に、現在生産されている、しそ漬け、はちみつ漬け、黒酢漬け、黒糖漬けそれぞれの商品に合わせた調味加工を行うのですね。
では、その中でも、認証品のはちみつ漬けについてお聞きします。
商品のこだわりやその特徴について教えていただけますか?
はちみつ漬けの梅干しというのは、やっぱりはちみつがメインになるわけですよね。
ただ、梅干し本来の味っていうのは、すっぱいんです。
このすっぱいのは梅の種が「呼吸」をしているからなんですが、はちみつの調味液につけると、梅が吸ったり吐いたりと呼吸することで、梅本来の酸味と調味液によるはちみつの甘さが、バランスよく調和された状態になるんです。
外側に近い果肉は甘く、中心の種に近づくにつれて酸味が生まれることで、すっきりとした爽やかなはちみつ漬けの梅干しができあがります。
そのちょうど良いグラデーションというかバランスが、美味しさになるんですね。
だから、この梅干しを食べた瞬間に口の中に飛び込んでくるはちみつの味っていうのを、私は大事にしたかったんです。

どこにも負けない美味しい味を作るっていうことがやっぱり狙いですから、鹿児島県産のはちみつにこだわりました。
はちみつは、蓮花とか花の種類によって色々あるんですけど、蜂の種類によっても味が全然違うんです。
私は、地蜂(以下、日本ミツバチ)にこだわっているんですけど、やっぱり美味しいですよ。
全然、味が違います。
そもそもミツバチには西洋ミツバチと日本ミツバチがあって、働き方も全然違うんです。
それこそ働き手が違えば味も変わる。
とにかく日本ミツバチの場合はですね、ある程度寒くても頑張って働くんですけど、西洋ミツバチの場合は、ちょっと寒くなるともう巣から出てこないんです。
だから、寒くてもどんどん働いて美味しいはちみつを運んでくれる日本ミツバチのはちみつっていうのは、色も濃くて粘度も高い分だけやっぱり濃厚な味ですね。
その味の違いは働き方の差なのかなって私は思ってるんですよ。
その差は、絶対、味に出てくるだろうなって。
やっぱり日本ミツバチのハチミツはすごいです。
もちろん、値段が高いですが、でもその分やっぱり美味しい。
良く見かけるハチミツは黄色で一部が白く固まったりもしますが、日本ミツバチのハチミツは、その濃さから琥珀色をさらに黒くしたカラメル色で、粘度も腰のある水あめのような硬さですね。
最初にはちみつ漬けを作ろうと思われたときに、最初からこのはちみつに出会っていたのですか?
最初は砂糖で作りたかったんです。
ただ、砂糖に漬け込んで作ると、梅に圧がかかったようにギュウって萎んだようになってしまうんです。pHも強いし。
なので、やっぱり砂糖に直に漬け込むんじゃなくて、これを液体に変えることによって食べ応えのある梅干しになると思ったんです。
はちみつとの配合を含めて、これを自己流の完全オリジナルで漬け込む液体を開発したんです。
やっぱり”普通”だったらダメなんですよ。
そしたら、ただの梅のはちみつ漬けってだけで、値段が安かったらいいっていう感じになっちゃうじゃないですか。
でも、自分が実際に作ってみて、やっぱり人に負けない。どこにも負けない。
これだったら超一流っていう美味しい梅干しを作りたかったもんですから。
それでやっぱり、そこに目標というか、そこしか狙いがなくてですね。

独自に研究を重ねられていて、地元のものにもこだわりを持って作られている。
そんな中で、自己流であればあるほど、その”おいしさの判断基準”というものに興味があります。
味覚を言葉にするのは、とても難しいと思うのですが、これだ!と判断するポイントのようなものはあるのですか?
自分が一番最初に美味しい!と思ったのを作ったときは、今までにない不思議な味でしたね。
リンゴというか何と言うか…出汁昆布のような甘みが出たんです。
不思議だったんですよ。
だから、何かの組み合わせによってこういう味が出た。
それがすごく美味しくて自分でも「うめえなぁ」と思って、それで塩分濃度のパターンを色々と変えて作ってみたんですよ。
なんで色々なパターンで作ったかっていうと、お客さんによってはしょっぱい方がいいっていう方もいますが、一方で、塩分濃度は控え目がいいっていうお客さんもいます。
それで、実際に最初のときは色々な塩分濃度の梅干しを出すと、ほとんどのお客さんが甘い梅干しをくださいって言うんです。
そうすると大体のニーズは甘い梅干しにあるんだなってことが分かってきて、それでお客さんが見てるのはなんだろうって考えたんですよ。
昔のイメージからすると梅干しっていうのは、例えば肉体労働される方はしょっぱい梅をお弁当に持っていくというイメージがありました。
今はお菓子感覚で…まぁお茶請けとかもですよね。
若い女性や子どもたちまで食べる時代になってきて、買ってきたばかりの梅干しパックがいつの間にか空になってたらしいんですよ。
だから、そちらの方に照準を合わせた方がいいなって。
それが結果的に判断するきっかけになったし、良かったんじゃないですかね。

お客さんの反応も見ながら試行錯誤を繰り返して作った商品が、今までの梅干しのイメージをいい意味で覆す商品として育ったということですね。
これはどんだけの需要があって、どんだけ進めていって、今後また改善していく余地がどんだけあるのかなとか、色んなことを考えるじゃないですか。
だけど、結果が出てくると、じゃああれはどうだろう、これをやってみようかなってやって今新しく出来た黒糖漬けとか黒酢漬けが出てきたわけなんです。
基準は元々がはちみつ漬けなんですよね。
うちの1番最初に作った梅干しははちみつ漬けですから。
しそ漬けの梅干しではなくて、はちみつ漬けの梅干しが始まりだったのですか?
最初は、しそとかは全然考えてなかったですね。
既にあるしその梅干しって全然美味しいから、ちょっと違った美味しいものを作ろうって感覚はありましたよ。
それで、何十年も前、最初は、はちみつ漬けにこだわっていました。
紀州の生産量には全然負けてるかもしんないけど、いい一品を作れれば絶対生き残れるっていう確信を持ってやってきましたね。
確かに、食べてて味が変化するというか、最初、口に入れたときこそ果肉の食感と甘みが口いっぱいに広がって、しばらくするとスッと溶けてなくなって、さらに中心の種に近づいたときに酸味を感じる味わいがあって、とても美味しいですし、面白い味だなと感じました。
後味にいつまでもベタベタしたような甘さが残るのは嫌だったので、例えば、甘みもしっかり感じられて、後味がすっきりして爽やかな綺麗な甘みを残したいっていうのが狙いで、そこをずっと目指していました。

味覚を言葉にするのは難しいですね。でも、この記事の読者の方には、ぜひはちみつ漬けの梅干しを召し上がっていただいて、”あぁ、このことかな”と感じていただけると嬉しいなと思います。
では、少し話題を変えて”未来”についてお聞きします。
薩摩のさつまには、次世代支援といった未来へ向けた取り組みも含まれています。
その“未来“という今後に対して、さつま町や子どもたち、ご自身のことでもかまいませんので、どうなってほしいといった想いはありますか?
私の場合は、実は言うと、去年一昨年あたりから、もうやめようかなって思うときがあったんです。
それは、梅の木がもう35年になろうとしているからなんですよ。
老化がきているからなんですけど、収穫をしてるときに梅の実がなっていると、その重みで枝が折れるんです。
じゃあ今から植えても、梅は大体8年ぐらいにならないと収穫時期にならないから、早くても7年は持たせないといけない。
でも後継者がいないじゃないですか。
それで、後継者をとにかく育てるために求人も出して、誰か来てくれたら後は譲るんだけどな、育てていきたいなって思っていたんですよ。
ただ、その後、たまたま娘婿が後を継ぐって言って来てくれたから、じゃあ、もうちょっと頑張らないといけないなっていう気持ちになったんですけど、でも、やっぱり、あの…なんですかね。
先のことを考えていったら、やっぱり農家さんが潤わないとダメなんですよ。
どうしても。

いっぱい作物を作りましたけど、収穫のときに人がいない。
昔はアルバイトを頼んだり、近所の人に手伝ってもらえればよかったのかもしれないけど、今はそれがないんです。
やっぱり基盤を作るためには、まず人を育てることだと思います。
今農家さんが1番困ってる。
そこを、やっぱり国じゃなくて身近な農業関係の団体さんとかが人材派遣とか、なんらかの形で事業を進めていくべきじゃないかなって。
人口が減っていくわけじゃないですか。
どこも条件は一緒だけど、地域にはいいものづくりがあるわけだから、やっぱりこういうものを残していくために、もうちょっとこうお互いの事業団体で、今、何をしていくべきかを話し合う必要があるんじゃないかな。
みんなが残ってくれるようなまちづくりっていうのを、やっぱりするべきかなと私は思います。
だから、例えば、地域の中で活動している素晴らしい人たちに、今後をどういうふうにお考えですか?っていうアンケートをとっても面白いですよね。
アンケートは面白いですね。
事業に関することだけではないですが、実はこの薩摩のさつまインタビューの”未来の話”がそのアンケートに近いものだと思っていました。
さつま町を代表する逸品を作る方々は、やっぱりこの町を代表する方々だと思っていますし、その方々に、ありたい姿としての未来を伺うことは、この先を考える上でとても重要なヒントになると思っています。
あとは、そのヒントや原石としての意見を元に何を、どうやって形作るかですね。
そのときに気を付けたいのは、スタイルだけが前面にでてしまうとそれではやっぱりダメなんです。
スタイルじゃなくて、その先の結果が出ていないと。
だから、そこの住民の方がどんだけの結果を出したかによって違ってくると私は思っています。
その人たちがどれだけの会話をして、どれだけの活動をして、「よっしゃ!!」っていう気持ちになったかっていうことだと思うんですよ。
本当にそうですね。それぞれの立場、領域はあれど、むしろあるからこそ、会話と実践が形づくるサイクルは大事ですし、「よっしゃ!!」と思えるかどうかは、とても大事にしたいことですね。
その「よっしゃ!!」を目指すために何をするべきか。
何処にもない、誰にも負けない超一流の味、引き寄せたい理想の未来、そのために全力で汗をかいた結果に得られる言葉のように感じました。
特に、その言葉の傍らに仲間の輪があれば、なお最高ですね。
今日は認証品や事業のお話から未来のことまで、貴重なお話をありがとうございました。
ありがとうございました。
認証品のご紹介

さつま南高梅 はちみつ漬
梅は百花の魁で目と心を癒し、雨の時には丘一面が甘酸っぱい香りで満たされる。品質の優れている南高梅をさつま町南高梅として育てあげ、県内産のみの材料で手作業で梅干しを造っています。
一.梅干しは5種類の味があります。一番人気のさつま南高梅のはちみつ漬けは塩分約5%でさつま町でつくられた梅を鹿児島県産蜂蜜で漬け込んだ自慢の逸品です。
二.梅香丘の梅干しは贈答用から、ご家庭で毎日食べていただける物まで。さつま町ふるさと納税でもご好評いただいております。県内産の梅干しを安心してどうぞ。
三.梅干しは昔からの食べる万能薬。疲労回復から癌予防、免疫力向上、ダイエット等。 梅干しが苦手な方も食べて頂けるとお言葉を頂いております。ぜひご賞味を。