重なるドラマ『竹林の小径(バウムクーヘン)』

菓子工房Konomoto 此元一晶さん

はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは、『竹林の小径(バウムクーヘン)』を作る菓子工房Konomoto 此元一晶さんです。

一層一層を丁寧に焼き上げるためには、機械を使っていても職人としての経験と感覚によるところが大きいと話す此元さん。洋菓子店から始まり和菓子屋さんへのチャレンジ、そしてバウムクーヘンという思い出に世代を越えて辿り着く。背中から背中へ語り継ぐ格好良さとは…。

 


聞き手:青嵜(以下省略)
――さつま町で菓子工房を営んでいるKonomotoさんの認証品『竹林の小径(バウムクーヘン)』。洋菓子店を営む一方で、地元で有名な湯気院という和菓子屋さんも経営なさっています。ご家族で経営されているお菓子屋さんの背景を、認証品のお話の前にお伺いできますか?

ご紹介いただいた湯気院はうちの社長(此元一晶さんの父)が作ったんですけど、元々お菓子屋さんとしての始まりは、祖父がこの菓子工房Konomoto(以下、Konomoto)をしていたことから始まったんです。

祖父が営業していた当時のKonomotoは、洋菓子、和菓子に限らず、手作りお菓子やパン等も販売していたようで、和菓子屋の湯気院を作った父も、元々は洋菓子職人として東京の洋菓子屋さんに修行に行っていたんです。

それで、修行後にさつま町に帰ってきてからは、Konomotoでケーキを出し始めたんですよ。

その当時はバブルの真っ只中で団塊世代より少し下の世代が超結婚ラッシュで、今のさつま町エリアにも結婚式場が3、4つあったようです。

当時は毎週誰かしら結婚式を挙げるみたいな状況で、その引き菓子の需要が高く業績も上々といった感じだったんですよ。

ただ、だんだんと世の中も変わり始めてきていて、結婚式も減ってくる状況でこのままじゃいけないなっていう風に感じていたようです。

その当時は卸しが売り上げを支えていたのですが、卸しよりも自力で売る店を作りたいというのが芽生えてきたらしいんです。

ちなみに、当時のカットした1ピースのケーキのお客様1人あたりの購入額がだいたい1,000~1,500円くらい。ホールケーキは3,000円近い金額です。

でも、和菓子はお土産に1,000円くらいの詰め合わせを1人のお客様が3~4箱買っていかれるんです。
なので、そこに着目してお土産に特化したお店を作ろうと和菓子屋の湯気院を作ったんですよ。

 

――社会の変化に伴う新たなチャレンジとして新業態を始められたわけですね。

ただ、湯気院を作るために初期投資として借金をしたんですが、売上が伸びずその借金が5年で倍になるくらいに膨れ上がっていたのです。

なので、最初のころは回収どころではなく、ただひたすら次から次へと出費が増えていく状況だったようで…。

僕が小学校2年生の時に湯気院ができて、15歳のときに鹿児島市内の高校へ行くために家を出るまでの8年間、一番大変な時期を子どもながらに見ていたんです。

――今では、その湯気院さんもさつま町を代表する有名な和菓子屋さんです。
創業時は大変な状況だったと想像しますが、その後に少しずつ経営が安定するようになってきたのですか?

経営が軌道に乗るまでは2段階のステップがありました。

湯気院には、もともと揚げまんじゅう「鼓腹(こふく)」という商品があったのですが、その商品が湯気院を作って5年目くらいにテレビで取り上げていただいたんです。

それで世間の認知も高まって、1段階ポンと経営状態が良くなったんですよ。

でもまだ売り上げとしては足りない状態で、その後、湯気院ができて10年目くらいに「生茶だいふく」という商品ができて、そこから流れが大きく変わったんです。

その当時、僕は鹿児島市内の高校の寮に入っていたのですが、急に実家が忙しくなったって言い出して(笑)

工房の様々なところで洋菓子・和菓子が次々と甘い香りと共に作られてゆく。


――では、経営が軌道に乗り始めたこともあって、その後、忙しくなったご実家を継ぐ形で此元さんもお菓子作りの道に進まれたのですか?

結果的にはそうですけど、最初、僕はお菓子作りの道を考えてなかったんです。

そもそも、小さいときから父と母が朝早くから夜遅くまで働いていて大変な状態を見ていましたし、その当時はWindows98が出る前ぐらいの時期だったので、お菓子作りよりもパソコンに関わる仕事の方が将来性があるんじゃないかと思って、高校は今で言うITに特化した高校に通っていたんです。

それで、就職活動の時期になってIT関連や家電関係の道に進もうかと悩んでいたくらいでした。

ただ、ちょうど時期を同じくして、湯気院では生茶だいふくのヒットで経営が軌道に乗ってきていたところだったんです。

今までの借金はとりあえず返済に充てられるぐらいの余裕が出ている時期で、私が就職活動するタイミングだったのですが、父は帰ってこいとか何も言わないんですよ。

ただ、周りの方から、ここまで父が頑張ってきたのにもったいない、家業を継いだ方がいいよ、その方が将来絶対に役に立つよみたいなことをずっと言っていただいていて。

それで心を決めたんです。

ただ、お菓子作りの勉強はしないできていましたから、「専門学校で基礎技術を学んで…」って言ったら父が一言「そんなお金はない。専門学校に行っても意味はない。そのまま修行へ行け」と。

「え!!?」ってなりましたね(笑)


――そこからお菓子屋さんとしての修行時代が始まるのですね。

お父様が作られた湯気院を継ぐ形だとするとお菓子作りの入口は和菓子になるのでしょうか。そうなると、認証品のバウムクーヘンとの出会いはどういった経緯からなのですか?

うちの父(湯気院社長)はもともと祖父が作った菓子工房Konomotoの洋菓子職人としてキャリアをスタートしている訳ですが、その父の修行時代にバウムクーヘンを焼いていたらしいんです。

ただ、その当時は機械を使わず手作業で1本ずつ焼き上げる形だったらしいのですが、バウムクーヘンは20層を年輪のように重ねていくので1本を焼き上げるまでに約1時間程かかっていたようなのです。

しかも、だいたい20層目くらいで生地の重みに耐えられずに亀裂が入って、生地が落ちてしまうこともあったようで、その場合は約1時間が無駄になってしまうんですよね。

ですから、それだけの技術と手間暇がかかる洋菓子という印象を、父は修業時代に経験していたようです。

それから大分後になって、湯気院の経営も軌道に乗りKonomotoのリフォームを計画している段階で、技術が進歩して複数本のバウムクーヘンを同時に焼ける機械があることを父が知ったのです。

ゆっくりと回転しながらじっくりムラなく焼き上げてゆく。

ちょうど、リフォームに合わせてKonomotoの核になるお菓子を作りたいと思っていたこともあったので調べていくと、どうやら北薩エリアではほぼ売っていなさそうということも分かり、バウムクーヘンは核となるお菓子としていいんじゃないか、という話になったんです。

さらに、導入しようとしていた機械は、ハードタイプのバウムクーヘンも焼くことができる鹿児島県で最初の機種だったので、ソフトタイプとハードタイプの2種類を焼くこともできればなおのことお店の特徴になるなと。

――そこで初めてKonomotoにバウムクーヘンが登場することになるのですね。
ちなみに、他にもさまざまなお菓子を作られていますが、薩摩のさつまの認証品にバウムクーヘンを選ばれたのはなぜですか?

僕は和菓子職人としてキャリアをスタートした訳ですが、父の修業時代の話でバウムクーヘンのことを聞き、それから機械メーカーさんから直接僕が指導を受けて焼き方を覚えていったので商品も僕が焼いていたということもあるし、やっぱり作る過程でいろいろなドラマがあったんですよね。

それに、使用している素材も、地元さつま町の求名(ぐみょう ※地名)で獲れる卵、九州産の生クリームやバター、小麦粉は江戸時代に島津藩から砂糖の貿易を任されてた会社が今でも残っていて、その会社の取締役を経由して九州で小麦粉を作っている会社を紹介していただいたりして、さつま町産から鹿児島県産、九州産で全ての材料が揃うんです。

また、砂糖も奄美大島で作ってる島砂糖というものを使っているので、さっぱりしているのにコクがあって、味に深みがでるのが特徴です。

そういったバウムクーヘンの思い出や出会い、こだわりの素材を使っていることもあって、この商品を認証品として登録したいと思いました。


――ちなみに、価格に関しても想いがあるというお話を以前お聞きしましたが。

バウムクーヘンに限らずうちの商品は、この辺りにしては価格が高いので、安くした方がいいんじゃないかっていうことも色々と言われたりするんです。地元価格みたいな感じで。

でもそういうのは難しい話なんですよ。
そもそもそこには材料を含めて色々な費用や人、技術や時間が入っている訳ですし、そこに付加価値という体験も含まれています。

仮にその価格が高いという人にとっては高かったとしても、商品そのものとその付加価値を含めて、商品に価値を感じていただければ、高額か低額かの金額の違いはあっても、けっして高いとはならないと思うんです。

安かろう良かろうで選ばれるお客様は値段が変われば去っていかれると思いますが、その価格でもご贔屓にしていただけるお客様と一緒に価値を高めていく方がいいんじゃないのかなって思うんですよね。


――商品だけでなく、商品を取り巻く体験としての付加価値が全体の価値を作る、というお考えは正にそのとおりですね。

体験は世界観とも言い換えることが出来ると思うのですが、それこそがブランドという言葉に対して込められた意味ではないかなと思うのです。

さて、その商品というモノだけでなく、世界観や体験といったコトを作る、ある種無形の資産を生み出すことにも繋がると思うのですが、薩摩のさつまには次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれています。
その”未来”という今後に対して、さつま町や子どもたちがどうなってほしいといった想いはありますか?

24歳のときに大分県の湯布院に研修へ行った際に、町の人たちとお会いする機会があったんですが、そのときにお会いした方々の多くが20~30代だったんです。

それで、なんで20代や30代前半の若い人が多いんですかってお聞きしたら、「私たちは湯布院という町で育って色々と苦労している先輩方の姿を見てきました。でも、その苦労していたとしても前を歩く先輩方の背中は、私たちにとってとても格好良く見えたんです。だから、そういう大人になりたいっていう思いで帰ってきたんです」って言うんです。

そのときの、「格好良い大人の背中」っていう言葉がずっと残っていて。

その一方で、今、さつま町は若い人たちが少なかったりするじゃないですか。
それはある意味で僕たちが「格好良い大人の背中」を見せきれていないからなんじゃないか、って思うのもあるんです。

僕はずっと先輩方の背中、例えば、薩摩のさつまを中心となって進めていらっしゃる堀之内 力三さんの背中を見ているんです。
そして、その堀之内 力三さんは、さらに上の先輩たちの背中を見ていると思うんです。

そういう人たちの背中の受け継ぎ方っていうのを、かっこいい大人として自分が見せきれているかなって思うと、まだまだ見せきれてないと思っています。

で、そういうかっこいい大人になるためにどうしていくかっていうことをもう一回ちょっと考えてみようかなって。

僕は力三さんほどの夢が語れないし、ビジョンとかももっていない。
ただそれでも、こういうふうにやりたいなっていうイメージはあるんですよね。

繰り返し繰り返し生地を重ね、何層にも渡ってじっくりと焼き上げる。


――格好良い大人の背中…憧れますね。

その「格好良い大人、格好良い人」って、此元さんはどんな人だと思いますか?

それこそ、以前そんな話をしたことがあって「笑いながら失敗を語れる人」って答えた方がいらっしゃったんですけど、僕も確かにと思うところがありました。

「今でこそこうだけどさ。こういうので失敗して、ただ、これがあったから今こうなったんだよ」っていう話を前向きな話として聞くと、やっぱり何かで失敗したとしても何かしら意味があるっていう風に受け取れるじゃないですか。

自重で生地に亀裂が入る等、そこには目に見えない試行錯誤と丁寧な手仕事が求められる。


――仮に失敗したことがあったとしても、そこから何を得るかということですよね。私もその考えにはすごく共感するところがあります。

失敗することが悪いことみたいな感じに捉えがちで、その結果、失敗を恐れてチャレンジから遠ざかってしまうことがあると思うんですけど、そうじゃないよってことですよね。

僕としては、よそさまに迷惑をかけなければ大失敗してもいいかなと思っていますし、そうなったときに、なぜそうなったか、次はどうやったらいいかをちゃんと考えていければ、失敗も糧になると思うんです。

ですから、ある意味楽観的にちゃんと前を向いて考えていけば、失敗は失敗にならないと思うんです。

――まさに年輪を重ねるように、味わいのある背中がそこにあるのかもしれませんね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)

薩摩のさつまロゴ認証品のご紹介

菓子工房Konomoto『竹林の小径(バウムクーヘン)』

菓子工房Konomoto『竹林の小径(バウムクーヘン)』

竹林の小径を歩きながら食べるお菓子をさつま町産の卵を使い小麦やバターなどの主要な原材料を九州産にこだわり、地方の魅力を詰め込み焼き上げたバターの風味に島砂糖のコクを合わせたバウムクーヘンとなります。

一.300℃を超える窯の中でじっくりと時間をかけて1層1層風味を閉じ込めながら焼いていますので口に入れた瞬間にバターの甘い香りが口いっぱいに広がります。

二.安心安全をモットーに当店洋菓子専門のシェフが気温湿度に合わせながら生地の仕込みから、焼き上げ、仕上げのコーティングを経てカット包装まで行っております。

三.竹林乃郷であるさつま町らしさをデザインにお越しさつま町の竹の雰囲気をアピールし若い世代にもお土産として持っていきやすいデザイン設定となっています。


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