自然と人の協奏『明日香の紅茶』

株式会社KUMADA 取締役 熊田明日香さん

はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは『明日香の紅茶』を作る株式会社KUMADA 取締役熊田 明日香さんです。

自然の力と人の手。自然と向き合うときの人の持ち得る感覚と、その先に生まれる豊かさとは…。

 


聞き手:青嵜(以下省略)
――さつま町でお茶農家を営む”株式会社KUMADAさん”の認証品『明日香の紅茶』。まず認証品のことをお聞きする前に、お茶農家さんとして普段されているお仕事のことを教えていただけますか?

熊田 明日香さん(以下省略)
うちは、さつま町の市街部よりも山側の方でお茶農家を営んでいます。
始めたのは、じいちゃんの頃からでもう60年近くになるのかな…それを父が引き継いで、今は法人化して株式会社KUMADAとしてやっています。

7.3ヘクタールの畑でお茶を作っていて、全て農薬は一切使用しないオーガニック農法で栽培しています。
これは、栽培している環境がさつま町の山間部で、有機栽培に適した場所だからこそです。

お茶の栽培は、3月に入ると霜の対策や茶園の管理作業が忙しくなります。
4月になると被覆(ひふく)と言って、新芽に色が乗り旨味が増すように茶園に覆いをする作業をします。

そして、4月20日頃から1番茶の収穫が始まります。1度刈り取りをしたら、また時間をかけて新しい芽が伸びてそれを刈り取る。その作業を繰り返して年4回の茶摘みをします。

――その中に『明日香の紅茶』に使われている茶葉も含まれているわけですね。

ブランドの認証をいただいた紅茶は”べにふうき”という品種の茶葉をつかっているんですけど、それを20アール栽培しています。

この品種は晩生の品種と呼ばれていて芽が出るのが遅いのが特徴で、うちはで年3回の収穫をしています。

もう20年近く前になるのかな。
その”べにふうき”の緑茶が、アレルギーや花粉症に効果があるって一時期ブームになったんですよ。

そのときに、うちでも”べにふうき”を植えたんですが、そのブームが過ぎてこの”べにふうき”で何をしようかって話になったんですよね。

”べにふうき”は、緑茶にするとその成分はいいんですけど、飲んだときに渋みがすごくて…。
その茶葉は、もともと紅茶系の品種ということもあって、せっかくだから紅茶にしようって言って、”べにふうき”だけは紅茶にすることにしました。


――もともと紅茶を作ってみたい、という想いはあったのですか?

最初に紅茶を作りたいって思ったのは、鹿児島県立農業大学校 (以下、農大)に入る前だったんです。

ちょうど農大に入る前に、鹿児島で昭和の頃に紅茶を栽培をしてたっていうテレビ番組を偶然見て。
それが衰退して細々と作る程度になっていきましたっていうのを見たときに、茶農家だったら紅茶を作れるんだって思って。

それだったらいつか作ってみたいな、っていう想いがずっとあったんですよ。

ただ、農大では紅茶について専門的に学ばなかったんですけど、その後に妹が同じ農大で紅茶を学んでて、妹が卒業後に家に戻ってきたときに、紅茶づくりをやりたいってことで、妹主体で試しに一緒に作ったのが初めての紅茶作りだったんです。

まぁ最初は試作だったので、また次の年にも試作をして、売れるのかな、これだったら売れるかな、と思って茶商さんに相談をしに行ったんですよ。

そしたら美味しいから売れるよ、って言っていただけて。

茶商の営業の方が、取引のある農家のお茶を自社の販売店で製品化して出したいっていう想いがあられたそうなんです。

その第1号として、うちの紅茶を一緒に製品化しませんかって言っていただけて、パッケージ開発が始まったんです。


――そこで、パッケージとして『明日香の紅茶』が生まれたんですね。

製造工程においても緑茶とは違う、紅茶ならではの工程があると思うのですが、その辺りを詳しく教えていただけますか?

紅茶と緑茶との違いは、簡単に言ってしまうと、発酵をさせるのが紅茶やウーロン茶。そうでないのが緑茶です。

緑茶は、収穫後すぐに、蒸して揉んで乾燥させて整形して、っていう工程があるんですけど、紅茶は収穫後に発酵をさせないといけないので、摘んできたらまず一晩寝かせます。

萎凋(いちょう)っていう水分率を落とす工程で、この後の行程で加工するのにちょうど良い度合いにさせないといけないんです。

次に、萎凋で水分が飛んだ茶葉は、表面と中心の方とで水分率が異なるので、製造日には揉捻(じゅうねん)と言って茶葉の水分を均一にする作業を行います。

その後、細かい葉と大きい葉を振るいにかけて分けた後に、いよいよ発酵の工程に入ります。

人によってやり方は色々あると思うんですけど、私は手作りの発酵用の箱に入れて1、2時間置いとくんですけど、そうすると緑色の茶葉が赤く染まるんです。

それがうまいこと言ったら、もうあとは乾燥するだけ。

なので、緑茶みたいに工程の途中に乾燥させる工程がないんですよ。
紅茶の乾燥は最後の1回だけ。

――紅茶を作る上で、発酵が大きな特徴なのですね。
その発酵は、どういった作用で促進しているのですか?

植物も生き物じゃないですか。
なので、摘んできた状態でも茶葉自体が呼吸をしてるので熱を持つんですよ。
この時に茶葉の中では成分の変化が起こっているんです。
紅茶の発酵はカテキンが酵素によって酸化発酵することで変化する状態を言います。

私の場合は自前で作った発酵箱に入れて発酵させるんです。


――環境を用意してあげて、あとはお茶の葉自体の力で発酵が進むのですね。
その発酵の頃合いというのはどうやって見極めているのですか?

私は、色と香り、手触りで判断をしています。

商品を発酵の度合いで整理すると、発酵を全くさせないのが緑茶。
完全発酵させるのが紅茶。
半分程発酵させたのがウーロン茶っていう形で、発酵の度合いによって色々な商品に分かれるんですよ。

その度合いを時間で判断する方法もあるけど、それだけでは良いものは作れないので私は感覚的に判断しています。

発酵させるとき、木箱に蓋をしているんですが、それを開けたとき、発酵の出来栄えによって茶葉の色と香りが全然違うので、すごく上手くいったときには、ものすごく香りがいいんです。

見極めのポイントとして、特に色と香りの2つは絶対外せないですね。

あとは、一番最後の工程の乾燥でも、棚式乾燥機と言って引き出し形の乾燥機を使っています。

この棚式乾燥機は全自動ではないので、人の手で茶葉を返して均一に乾燥を促す分、手間暇がかかるんですけど、例えば、乾燥の工程で、発酵があとちょっとっていう茶葉があっても、人の手で返して調整することによって、その乾燥機の中で再発酵っていう形で発酵が進むんですよ。

人が手間暇をかけることで、かえって細かい部分まで調整しながら作ることができています。

――製造というと少し機械的なものを勝手に想像してしまう部分があったのですが、発酵の工程を含めて、その工程にかなり人の手が入っているんですね。

そうですね。
うちのやり方っていうのもあるんだけど、自動化していない分だけ製造できる量がものすごく少なくて。

だから、茶葉の収穫で言うと、緑茶だと多いときには1日に4,000kgくらい収穫するんですけど、紅茶は1日に250kgぐらい。

製品にすると、緑茶だと1日に何百kgって作るのに対して、紅茶は1日50kgぐらいしかできないんです。

――もともと紅茶の製造自体に興味があったというお話がありましたけども、それでも、非常に手間もかかるし、熊田さんがもう一方で作られている緑茶と比べると生産量も少ない。

それでも紅茶をやってみたい、やろうって思い続けられる理由はあるのですか?

毎年作っていくと、だんだんと作り手として自分自身も成長していて。

年々良いのができていく中で、お客さんにやっぱりここの紅茶が美味しいわとか、イベントで試飲してもらうと生の声が聞けて、そういうの聞いたときに、なんかやっぱ作るのやめられないかなって(笑)

この方法で作るのはもうすごく大変だから、何歳まで作れるかなとは思うんですよ。

ただ、作るのは大変なんですけど、評価がすごく目に見えて出るので。
そういう声を聞くと、できる限り頑張りたいなって思いますよね。


――こだわり抜くことで作れる品質とその一方で大変さが伴う背景。
でも、それに対して反響があって、評価をいただけるというのはとても嬉しいですよね。

継続という意味では少しこの先のことに繋がる話も出ましたが、薩摩のさつまには、次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれています。

その”未来”という今後に対して、この地域ブランドを通して、さつま町や子どもたちがどうなってほしいといった想いはありますか?

そうですね。
お茶に関してで言うと、今、業界自体は、特に若い世代のお茶離れが進んでいるのでお茶を飲んでもらえる環境を目指すっていうところが大事なんですけど、正直、私個人の意見としては、ペットボトルのお茶が悪いわけでもなく、ただ本物の味を知らないっていうのが悲しいなって思います。

あと、これは食育とかの分野になるんですけど、私の親世代やさらに高齢の方とかは特にお茶は急須を使って正しい入れ方をしなきゃダメっていう方も多いと思うんですけど、私は、本人が美味しいと思えるお茶の淹れ方ができればいいと思ってるので、こだわるあまり、その文化から離れてしまうのであれば、作法には特にこだわらなくていいと思ってるんです。

なので、例えば、小さい子どもとかが対象だったら、お大人は邪道じゃない?っていうような飲み方でも、こういうの面白いんじゃないっていうものにチャレンジできるような、教える場というよりも、一緒に楽しむお勉強の場っていうか、そういうのができたらいいなと思ったりします。

このお茶、どうやったら美味しく飲めますか?って聞かれたら美味しい淹れ方を教えますけど、自分のやり方で全然いいと思うんで。

ほんとに好きな形で楽しんでもらえたら、それがいいと思います。


――確かに、物事をこうあるべきという固定観念で見てしまいがちですが、まずは手軽に知ってもらわないことには触れるきっかけも得られないですね。

そう考えると、これから、人口が減っていくという中において、まずそのこう物事から離れていくっていうことを避けるというか、地域に関しても、より知ってもらうためには、まず触れるためのハードルを低くできるといいのかなって思いました。

何事もそうなんですけど、触れるきっかけになるものは都会みたいに何もかも新しく作ればいいっていう話じゃないと思うんですよ。
田舎には田舎の良さがあるので。

きっかけは何でもいいと思うんです。

私の夢は、無農薬とか有機栽培をやっている影響もあるんですけど、昔みたいに裸足で、子ども達がそこらへんを走り回ってるような光景がもう1度できればなって思っています。

さつま町で育ったので、家族の子どもたちも、外で泥んこまみれになってても、特に誰も何も言わないんですよ。自分たちも小さい頃そうだったから。
よく小さいときに土食った、とか言ってたりするので(笑)

なんか最近そういう子ども達って少ないなって思って。
なんかもったいない気がします。

町の人口が減っていってるので増やしたいっていうのももちろんあるけど、その前に今の子ども達がこの町から離れたくないなっていう環境作りがしたいなと思うんです。

なんか、この自然いいじゃん、って思えるような環境作りが。


――それが、きっと地方にしかない良さ、というところに繋がるのかもしれませんね。

都会の若い世代が田舎に移住するって話は、全国的にみても結構あるじゃないですか。
移住する理由って、やっぱり、そういう地域が綺麗な自然環境を守ってるからなんだろうなと思うんです。

もう手が間に合わないし、めんどくさいから草刈りしないとか。荒れても仕方がないわって言うんじゃなくて、その環境を綺麗にしておけば、絶対、そこに目を向けて行きたいっていう人たちはいると思うので、そういう環境を…要は環境保全ですよね。

“今あるものを大事にしようよ” っていうことが大事なんじゃないかなって。
新しいものばかりでなくここにしかないものが大事だと思います。


――今あるもの、ここにしかないものを大事に。
本当にそのとおりですね。

自然もですし、今いる子どもたちや自分たちのことも。
それは、一方的なものではなくて、お互いに活かし合うことのようにも感じました。

茶葉が、自分の力で発酵できるように環境を整えるお手伝いで人がいる。
未来の話も、地域が既に持っている資源を活かすために人がいる。

感覚というアンテナで相手の力も信じながら共に創る彩りは、ふわりと浮き立つ香りと共に豊かさを運んでくれるように思いました。

今日は貴重なお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)

薩摩のさつまロゴ認証品のご紹介

株式会社KUMADA『明日香の紅茶』

株式会社KUMADA『明日香の紅茶』

株式会社KUMADAの女性農家が茶品種「べにふうき」で一から作る和紅茶。花のような香りと赤みを帯びた美しい水色の渋みの少ない紅茶です。有機栽培で農薬・化学肥料を一切使わず薩摩の豊かな自然にも配慮しています。

一.渋みが少なく、紅茶になじみのない人でも飲みやすい紅茶です。華やかな香りとほのかな甘みがあるのが特徴で海外の方にも好評です。

二.農薬・化学肥料は一切使わずエコに取り組んだ栽培を行っています。環境にもお茶にも配慮した茶葉だから安心して飲んでいただけます。有機JAS認証・ASIA GAP認証も取得しています。

三.希望や好み、用途に応じてリーフやティーバッグ、緑茶などを含んだギフトにも対応いたします。


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