"楽しい"の研究『アスパラガス』
はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのはさつま町産の『アスパラガス』を作る松金農園の松木囿耕平さんです。
農業との関わり方や未来の町の姿。”楽しい”は僕らをどこへ連れて行ってくれるのか…。
聞き手:青嵜(以下省略)
――さつま町で農業を営む”松金農園”さんの認証品 さつま町産『アスパラガス』。
アスパラガスを専門に育てているという松木囿耕平さんに、そのこだわりと背景を伺います。まず、作物としての特徴や普段されているお仕事の様子を教えていただけますか?
松木囿 耕平さん(以下省略)
アスパラガスは、ほぼ年間通して収穫できる作物で、2月から10月ぐらいまで収穫できる野菜です。
なので、期間中はほとんどが収穫作業で、収穫は朝と夕方と1日2回。伸びてきては収穫しての繰り返しです。育ちすぎると頭の部分が開いてしまうため、コンスタントに収穫しています。
収穫以外では、防除(農作物に悪影響を与える病害虫や雑草を防いだり除くこと)が主な作業ですね。
こだわりは、できるだけ町内で手に入る肥料で統一したいっていうのがこだわりたい点かなと思っています。
さつま町は竹が有名なので、竹も資材として使いたいなって思っていたのですが、町に笹サイレージ(竹笹をまるごと砕いて、蜜と水を混ぜ合わせ作られた畜産用飼料)ができたので、あとは梅の肥料が欲しいと思っています。
例えば、梅を漬けた後の梅酢とかあるので、それが使えないかな、とか。
あと、水稲も多いので、もみ柄とかもたまに使うんですけど、できるだけ町で出た副産物を肥料として使ってます。
さつま町には畜産農家さんがいっぱいいらっしゃるので、循環ではないですけど、その中で良さそうなものを入れたりしていますね。
――地域の様々な有機物を使って、試行錯誤されてるということですね。
その町ならでは、という点でも地域の副産物の利用は特徴にもなると思いますし、その副産物の作り手さんもお互いが知っている方同士であれば、顔が見える関係という意味でも安全安心とかそういった部分に繋がるように思います。
そうですね。やっぱりそういうところもあります。
循環というか、今は、SDGsへの意識もありますし、元々、有機物を入れることで良質な作物に育つこともあるので、町内に副産物として溢れるほどあるんだったら、そういうの使っていければ一番いいなって思っています。
やっぱり、さつま町オリジナルとして、地域のものにこだわった作り方をすることで、一番その町に合った作物になるのかなって思っています。
――そのアスパラガスですが、2月から10月の間が収穫というお話でした。
季節によって味に違いはあるのですか?
春前の2月頃、そのシーズンの最初に出てくるものは、めちゃくちゃ甘くて柔らかいです。
そこから、だんだん夏に向かうにつれて日が強くなってくるので、食感にも歯ごたえが生まれて、いわゆるアスパラガスらしい味になっていきます。
そこからどんどん味が凝縮されていって、10月頃まで味が変化していきますね。
――個人的には普段から食べることも多いアスパラガスですが、肥料の試行錯誤や時期による味の変化、95%が水分だということにも改めて驚きました。
そもそも、アスパラガスを専門として農業を始めようと思ったきっかけは何だったのですか?
自分は、全然農業に関係のない高校だったんですけど、農業をしたいな思って入った鹿児島県立農業大学(以下、農大)に入学したんです。
農大のキャンパスは、以前は学部ごとバラバラに点在してたのが、入学した当時、ちょうど吹上(日置市)に全ての学部が集まった年だったんです。
そのとき、吹上は鹿児島県のアスパラガスのブランドがあったので、担任の先生が農大が吹上に来たからアスパラガスを植えるって言い出して、なんか知らないですけど、自分がやることになったんです(笑)
一言もアスパラガスをやりたいっていう希望は出していなくて、メロンとかいちごとか書いていたんですけどね(笑)
でも、勉強してるとめちゃめちゃ面白いなって思ってきて。
町内で元々アスパラガスの部会はあったんですけど、もう作ってる人もいなかったので、やるんだったら誰もやってないものをやりたいなと思って。
結構、周りからはトマトとかすすめられたんですけど、トマトもやってる人がいっぱいいて、ある程度技術がもう確立されてるっていうか。
それだったら、なんか、もうちょっと違うことをやった方がいいなって思って選んだのはあります。
これで上手くいけば、新しく農業に携わりたい子の選択肢が広がるっていうか、新規で就農する方も増えるんじゃないかなって思うんです。
――すでに、次に続く人たちのことを考えられているお話もありましたが、それと合わせて、まだ確立していない分野に面白味を持たれていることがとても印象的に感じました。
肥料のお話を振返っても、言葉の背景に勝手ながら研究者をイメージしながらお話を聞いてしまいました。ご自身の好みと言っていいのか、”研究”というプロセスはお好きですか?
あー、好きです、好きです(笑)
どっちかっていうと、収穫後よりも、収穫するまでの試行錯誤している期間が好きです。
考えてる方が楽しいっていうか、面白いかなと思ったりするので、収穫になるとちょっと萎えてきます(笑)
例えば、最初はたい肥もあまり入れてなかったんですよ。
入れない方がいいんじゃないかって思ってたんですけど、試行錯誤を繰り返す中で、やっぱ入れた方がいいなっていうので去年から入れ始めました。
そしたら、今年の出来とかも見て、全然入れた方がよかったなって。
試して結果を見ての繰り返しですね。
――松木囿さんのアスパラガスとの向き合い方にすごくこだわりを感じるお話でしたが、先ほどのお話の中で、次の世代の人たちが新しく農業に参入したいと思ったときの選択肢の1つになれればというお話もありました。
薩摩のさつまには、次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれていますが、この地域ブランドを通して、さつま町や子どもたちの未来がどうなってほしいといった想いはありますか?
結婚もしていないし子どもがいないので、子どもたちの未来というのは、そこまで深くは考えてはいないんですけど、でも、できるだけさつま町が残っていけばいいなっていう想いはあります。
だんだん高齢化していって本当に元気がなくなってきてるっていうのは感じてたんですけど、でも、堀之内力三さんが地域ブランドをやるぞって言ってて、すごいなと思ってた中で、大安吉日トマトを作っている市囿庄一さんと会ったときに誘っていただいて、少しでも貢献できればなって。
それで、やりますって。
この地域ブランドの動きを通じて、もう少し町に元気が出てきてくれればなって想いがあります。
――さつま町に限らず、高齢化と人口減少は避けられない状況がある中で、やっぱり元気のある町がいいよねっていうことは、取材を通して認証品を作る皆さん口を揃えておっしゃっています。
元気を得るには何が必要だと思いますか?
“楽しさ”ですかね。
やっぱり自分たちが楽しくやってないと、周りのひとや、それこそ若い世代の人たちも多分面白くないと思うんですよね。
よく年上の方に、もっと若者が頑張れ、みたいな感じで言われる場面があるんです。
こういう問題があるからどうすればいいですか、意見が欲しいですって。
でも、そう言われてもな…と思ってしまう。
だから、自分たちで、もっと、楽しいって信じていることをやらないと、多分、見ている人たちも面白くないと思うんです。
それこそ、薩摩のさつまのブランドコンセプトにある「支え合い、褒め合い」っていう、仲良くしていきましょうっていうのは、すごくいいなと思ったんです。
楽しくやってれば、見ている人たちも、あぁ、やりたいな、入りたいなって、思ってくるんじゃないかな。
そういったことを発信していって、少しずつ大きくなっていければ、世代を越えて若い人たちとも繋がりが続くと思うんです。
そういう繋がりの中で、若い人たちが自分たちのやりたいことがあったら、じゃあすれば良かよって、背中を押してあげられるのが1番いいのかなと思います。
――大事なのは”楽しむこと”ですね。
確かに、生きていて楽しみたいし、楽しんでいる人と一緒にいたい。
もちろん、楽しみ方は人それぞれなのでしょうけど、楽しみたい気持ちは年代や地域に限らないことだと思います。
ちなみに、今、楽しもうと思っていることはあるのですか?
例えば、僕らより若い世代の人たちが、Youtubeとかで発信を頑張っていたりするので。
僕もたまにやりますけど、そういうのを使って少しずつでも発信できたら面白いのかなと思います。
――Youtube配信されているんですか??
はい、たまにですけどゲーム配信しています(笑)
農業やアスパラガスのことをこんなんですよって話すよりも、ゲームしながら話した方が面白いかなって。
一応告知はするんですけど、まだ誰も見に来てはくれないんですけどね(笑)
昔、農業をやるゲームがあって、僕が農業を始めたきっかけの半分くらいはそのゲームだったんです。なので、Youtubeのゲーム配信を見た若い世代の子たちが、農業なんかいいよねってなってくれたらいいなって。
真面目に「農業いいよ」とか「頑張ろう」っていうのは、もうみんなやってるので、僕は別の違う方法でさつま町にはこういうのありますよとかを発信して、少しずつそういうのを見てくれる人が増えれば面白いかなって。
――色々な情報を受け取れる時代ですから、本当に土に触れて農業の道に入る人もいれば、それこそゲームから入ってくる人もいる。
きっかけはもしかしたら何でも良くて、気持ちとタイミングがあれば、いかようにでも成るのかなって思いますね。
一方で、いざやりたいなって思ったときに、前を歩く先輩方が選べる選択肢の1つとして、道を作ってくれているのはありがたいですし、それを正にやろうとされていることは、次世代においてもとても実りあることだと思います。
そうなればいいなと思いながらやってます。
――なんか、すごく意外な形で繋がりましたね。
“楽しい”の輪。物ごとの原点のように思いました。
どんどん面白いと思えることにチャレンジして、トライ&エラーじゃないですけど、失敗であっても成功の種を作ってると思えば、いくらでもやりようがあります。
面白そうなことに人は集まるっていうのは、本当にそのとおりですよね。
そうですよね。今、水面下で進めている企画があるんですけど、たぶん最初は、そんなうまくいかないからってめっちゃ言われました(笑)
ただ、うまくいかないけど失敗していいのよ。
やりなさい、やりなさいって言ってくれたんで。
楽しめたもん勝ちというかですね。
――楽しい話、楽しんでいる話は聞いていてもポジティブな気持ちになりますね。この気持ちが人を集める素なのかもしれませんね。
水面下で進行中の企画も、とても楽しみにしています(笑)
今日は貴重なお話をありがとうございました。
水面下の企画も、発表できるときがきたらお知らせしますね。
こちらこそ、ありがとうございました。
※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)
認証品のご紹介
松金農園 さつま町産『アスパラガス』
鹿児島県の北部にある梅と竹の町、「さつま町」で栽培しているアスパラガス。中学生時代のあだ名に最高のアスパラガスを作るという思いを乗せた「松金アスパラ」をぜひ召し上がってください。
一.さつま町の寒冷な冬の気候を活かして、しっかりと養分を蓄えたアスパラガスは、強い甘みと濃厚な特有の味を感じられ、根元まで筋が少なく柔らかいので美味しく食べられます。
二.有機肥料を中心に与えることであまくて美味しいアスパラガスを目指しています。朝夕、一日二回収穫することで品質のいいものを提供しています。
三.使用する堆肥やもみ殻などの有機物を町内のものを使用し、美味しいアスパラガスに還元することでSDGsにも配慮しています。