御互助の想い『薩摩おごじょうゆ』
はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
最初にお話を伺ったのは『薩摩おごじょうゆ』を作る髙橋由記子さん(農家そばヤマサキ 店主)です。
その想いにある「御互助」とは…。
聞き手:青嵜(以下省略)
――古民家で蕎麦屋を営む”農家そばヤマサキ”さんの認証品『薩摩おごじょうゆ』。商品名からも醤油であることが想像できますが、この商品はもともとあったものではなく、とある企画がきっかけで生まれた商品と聞きました。
認証品が生まれた背景を教えていただけますか?
農家そばヤマサキ 髙橋由記子さん(以下省略)
まぁ、ほんとに商品化なんてずっと無縁だと思ってましたよ。
きっかけは、さつまdeまちゼミ(以下、まちゼミ ※後述)なんです。
まちゼミで卵焼きの講座を開いたんですけど、その味付けに店の味付けと同じかえし醤油を使って、焼く練習をしていたんです。
それで、記念というか、何回も練習した方が上手になるから家でも作ってみてくださいって感じで、お土産にかえし醤油のサンプルをお渡ししていたんですよね。
そうしたら、後日、サンプルをお渡しした参加者の方から、香りや味が家で作るのとは違うからこの醤油って売ってないんですかって言われたり、孫に初めて卵焼きが美味しいって言われましたとか、色々な料理に使えて万能ですねっていう声を直接聞いて。
こんなに評価してくれる人が多いんだったら、いつか商品化できたらいいなっていう気持ちが芽生えたんです。
でも、その時の「いつか」は、いつになるかわからないままだったんですよ。商品化できたらいいな。ま、いつかね、みたいな(笑)
なので、まあ、あんまり言い訳がましいことは言いたくないけど、毎日のことに追われて商品化なんてそんな余裕もないし、お金もかかるしで。
そんなときに『薩摩のさつま』が地域ブランドとして立ち上がったんです。
それで、ブランドの認証を受けるためのセミナー(叩き上げブランディングプロデューサー安藤竜二氏による実践型ブランディングセミナー)に参加して、安藤先生から「やれないんじゃない、やらないだけ」っていう話を聞いて。
それが、なんかもう、自分の中学とか高校時代のスポコンじゃないけど、そういったものを思い出して。
いつまで待っててもできない!
せっかく、このセミナーに来たんだったらやってみよう!!ってなって。
そこから本格的に動き出しました。
――まちゼミで講座を開いたことで生まれた参加者の方との交流をきっかけに、髙橋さんにとっての日常の味が、”特別な味”だったことに気がついたわけですね。そして、安藤先生の言葉に背中を押していただけた。
ありがたいことです。なので、まちゼミも薩摩のさつまも、どちらもなかったら、この商品はできていなかったですね。
まちゼミだけだったら願望としてあったかもしれないけど、こんなに早く商品化は実現してなかったかもしれません。
――まちゼミ参加者の声から生まれた『薩摩おごじょうゆ』ですが、まず最初に素敵なパッケージが目に留まります。このデザインが生まれた背景を伺えますか?
さつま町に竹添星児さんっていうイラストレーターさんがいらっしゃるんですけど、以前にも別のことでお願いしたことがある方で、今回も相談をさせていただきました。
わたし、デザインはお任せって言うより、結構がっちり自分のイメージを固めて依頼するタイプなんですよね。
それで、竹添さんは、わたしのイメージを受けて、プロ目線でもっとこうしたらとか、こういうパターンもありますよ、とか色々引き出してくださるので、完成するまでに何回か変化しているんです。
うちがロゴとかに紺色を結構使ってるので、最初は紺1色だったんですけど、カラフルだったら可愛いんじゃないかなって。
売り場で映えるような、どこかに置かせていただくときもパッと華やかになればいいなと思って。女性らしく。
あと、このデザインにはさつま町のテーマも入れてあって、緑の波のところはさつま町を流れる川内川(せんだいがわ)、黄色は蛍、この茶色はそばの実だったり。
デザインも、最初は水平垂直の直線的デザインだったものを、斜めにしてパッチワークみたいにしたいですって伝えて形にしてもらったり、包装紙の内側部分には薩摩のさつまやまちゼミ、さつま町についての説明も入れました。時間かけて丁寧に作っていただきましたね。
いずれにしても、薩摩おごじょをもじったネーミングを先に決めていたので、女性らしいパッケージっていう感じにしたような気がします。
――ちょうどネーミングの話がでましたが、商品名がとてもユニークですよね。
そのネーミングに至った背景も教えていただけますか?
まず形から入っていくタイプなので、安藤先生のセミナーを受けた後に、家族でネーミングをどうする?って色々案を出したんですよ。
例えば、”つゆ”だから、”to you”とか(笑)
そういうダジャレみたいな。
なんか、パッとしないものしか出なくてクラウドソーシングのサービスを利用したら、「おごじょうゆ」っていうネーミングを提案してくださった方がいて。
で、たぶんその後に私の説明文を改めて読んで、”薩摩”を加えた「薩摩おごじょうゆ」っていう案を出してくださったんです。
”薩摩おごじょ”をもじったネーミングだし、地域ブランドが「薩摩のさつま」だから”薩摩”の文字も入っているし、いいかもしれないって決めたんです。
ただ、薩摩おごじょっていうと、一般的には鹿児島の女の人のことを言うらしくて、本来の意味や人物像を調べたら、諸説あるんですけど、男の人の三歩後ろを下がってみたいな、そんなのが多かったんです。
その中で、互いに助けるって書いて御互助(おごじょ)って読む説があるのを見つけたときに、これだ!と思って。
まちゼミは互いにお薦めし合うし、地域ブランド薩摩のさつまも「おとなりさんのソムリエ(人に薦められる程にお互いのことを理解し、支え合う意味)」を合言葉にしているじゃない。
この助け合うっていうのが、もう、とにかくいいなと思って。
私の中では他の説はもう抜きにして、この説に決めようと思ったんです。
それで、台所でも色々な料理を助け支えるような薩摩おごじょみたいな存在になれますように、という願いを込めて、このネーミングに決定したんですよね。
――互いに助けると書いて御互助。互助に”御”が加わることで、互いへの尊敬といった丁寧な姿勢も伝わる素敵な言葉ですね。
そんな『薩摩おごじょうゆ』は農家そばヤマサキさんの営みの中で生まれました。そもそもの、髙橋さんがお蕎麦屋さんを始めた背景を伺えますか?
さつま町で生まれ育って、一度県外へ出て、それで帰ってきたのでUターンなんですけど、
10年前くらい前に帰ってきたとき、最初の3年間は隣の建物でカフェをしてたんですよ。
もともと父と弟が山崎農場っていう名前の稲作農家で、小麦とか雑穀とそばを作っているんですけど、ちょうどUターンで帰ってきた頃に、父がグリーンツーリズムでピザ作り体験とかしてたんですよね。
今はやってないんですけど、ピザ釜とか作るのにこだわってたりしていたので、それでピザを出すカフェを始めることにしたんです。
最初の頃は色々なところが取り上げてくださって、お客さんもそれなりに入っていたんですけど、それでも、今やっている蕎麦屋の暇な日ぐらいしか売り上げが上がらずに、3年ぐらいやっていた中で、この先どうしようかなってなったんですよ。
それで、カフェの隣にあった今の蕎麦屋の建物が使われていない状態だったので、山崎農場で蕎麦も作ってるし、じゃあ蕎麦屋をやってみようってなって。
最初、週3でカフェ、週3でそば屋のハイブリッドで営業を始めたんです。
そしたら断然、蕎麦屋の方がお客さんの年齢層も幅が広いし、カフェはほぼ女性客だったのに対して、そば屋は男性客も多く回転率もいいので、これはもう蕎麦屋に絞った方がいいんじゃないかなってなって、で結局、2017年からは蕎麦屋一本ですね。
――築120年の古民家の味わい深さを残しつつ、お客さんの声に合わせてテーブル席を増やす等の工夫もされていると聞きました。一朝一夕では真似できない、建物に染み込んだ長い歴史の風貌に居心地の良さを感じる店内には、どこかホッとする安心感も感じます。
一方で、120年前にこの建物が建てられたときは、蕎麦屋として賑わっている姿を誰も想像していなかったかもしれません。
その”未来”という点についてもお話しを伺います。
薩摩のさつまには、次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれていますが、この地域ブランドを通して、さつま町の未来がどうなってほしいといった想いはありますか?
この地域ブランドの売り上げの一部がさつま町の子どもたちへの寄付になるっていうのは、すごく良い取り組みだと思います。
5年後、10年後、いつになるか分からないですけど、子どものスポーツのスポンサーになれたりとか、そういうのは1つの目標としていいなと思います。
思うけど、なんか、その、町に対して何かをお願いする気はさらさらなくて、結局、どういう未来にしていくのかも自分たち次第だと思っています。
ただ、やっぱり寂れてほしくないっていうのはあって。
大きい企業だけがうまくいっていればいいっていうことじゃなくて、私たち商売人も、自分の店や自分の事業をそれぞれが頑張って、その結果、そういう人が集まって町が盛り上がっている、っていう状態がベストなんじゃないかなって思ってるんですよ。
なので、私は私の蕎麦屋を頑張る。
あなたはあなたの仕事を頑張って、って。
1人で篭ってやってたら周りも見えないし、一人で頑張るって限界があるから、そんな時に話が出来る仲間がいたら心強い。
私もまちゼミに行ってなかったら、ポツンと相談する相手もなく、っていう感じだったから。
チャンスがあればチャレンジして、そういう頑張ってる人が沢山いるんだよっていうのが分かればいい。
「さつま町のために」ではなくて、結果的に「さつま町が盛り上がってるよね」っていうのが私の中のベスト。
最近はさつま町って元気があるよねって、よく周りの方から言われるので、そういう町であり続けてほしいと思いますね。
――それぞれが自分の生業で精一杯を形作って、そういった人たちが集まっている状態。
そうなると人が集まるだけではなくて、やっぱり、そうしたときに先ほどの”御互助”ではないですけど、お互いに助け合う状態を作れていることが、すごく大事なのかなって思いますね。
やっぱ人の繋がりっていうか。
田舎だからこそ、助けてくれる人がいっぱいいますから。
私も、ほんとにカフェから蕎麦屋へ移行する前、精神的に落ち込んでいたときがあって、そのときに女手一つで子どもを育てあげた飲食店の方に、慰められ、励まされて今がある。
本当に、今でも本当に感謝しています。
今も商売を続けられているのはその方のおかげっていうのは、かなりありますね。
自分が世代的に逆の立場になったら、同じように若い人に助言もできる人間でありたいし、そして逆に刺激ももらえるような、お互いにそんな関係ができればいいなと思います。
やっぱりね。売り出すために県外とかに1人で立ち向かおうなんて無謀というか、それはそれで、できないこともないんでしょうけど。
それよりは、みんなでできたらいいですよね。
「みんなでやれば怖くない」じゃないけど。
薩摩のさつまのどなたか1人でも当たればそのブランドに注目が行くので、そこから波及していく形でも良いかなって。みんなが一気に売れるというのは無理だと思うので。
誰かが、なんか、どっかのきっかけで当たってくれたらいいなと思いますけどね。
うん。そこがなんか、もしかしたら1番の強みかもしれない。
みんなでやる強みって、そういうことですよね。
――本当にそうですよね。
皆さんそれぞれが既にご自身の生業でベストを尽くされている。その方々が作るそれぞれの商品を地域ブランドとして共通の冠を掲げ、一体となって地域外へお届けする。
一体となることの強み、個々であることの強み。
その二つを意識したいですね。
今日は貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
それにしても、未来って言われたらな。想像がつかないけどね。
自分の店もどうなってるかわかんないもんなー(笑)
でも、どうなっていても前向きに頑張る人たちの輪の中にいたいかな。
※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)
- ・マスクは撮影用に外しています。普段はマスクを着用して営業されています。
- ・“そば”の表記について、店名以外は”蕎麦”あるいは”蕎麦屋”と漢字表記にしています。
認証品のご紹介
農家そばヤマサキ『薩摩おごじょうゆ』
「薩摩おごじょうゆ」は、薩摩郡さつま町のそば店 農家そばヤマサキ オリジナルの万能調味料です。店を通じて出会ったお客様の熱い要望で商品化が実現しました今も昔も薩摩を支え続けた薩摩おごじょのように、ふるさとの味・手作りの味を支えます。
一.薩摩で親しまれる甘めの味付け。薩摩おごじょうゆは鹿児島県産醤油を使用。 素材本来の味を引き立て、旨味を堪能して頂けます。 ご家庭で簡単に、懐かしい ふるさとの味をお楽しみ頂けます。
二.砂糖・みりん・醤油など基本の調味料を店独自の配合でブレンド。 これ 1 本で簡単に美味しく料理を仕上げることができます。 時短料理にもかかせない、忙しいあなたの味方です。
三.ストレートでも、希釈しても使える万能調味料。 希釈割合を変えるだけで色々な料理にお使い頂けるので献立の幅も広がります。 当店の味を簡単に再現できるレシピ付き。
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