生きる力『にんじんドレッシング』
はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは、『にんじんドレッシング』を作る里山の味 代表の久徳スミ子さんです。
生業と合わせて社会のための人生を送られてきたとお話される姿。そして、生きるために必要なこだわり。その想いがエッセンスとして注がれた、里山から生まれる味わい。
何よりも、エピソードのどこかしこにも感謝の想いが溢れているお話は、言葉以上に雄弁に、その背景を語りかけてくれます。
里山にある豊かさを、どうぞお楽しみください。
聞き手:青嵜(以下省略)
――さつま町で加工食品等を手掛けられている”里山の味”さんの認証品『にんじんドレッシング』。認証品のお話の前に、まず里山の味さんが普段されているお仕事のことを教えていただけますか?
久徳スミ子さん(以下省略)
普段は、さつま町のJA農産物直売所「ちくりん館」で、手作りのあくまきやお赤飯、あんこ餅等のお餅類と、数種類のおにぎりを販売させてもらっています。
この形で販売させてもらっているのは2015年からなので、7年間、土日関係なく正月以外の毎日、前日の晩に仕込んで翌朝に準備して、午前中にはちくりん館(さつま町の農作物や加工品等を販売している道の駅的施設)に納めに行くというのが私の日課になっています。
――“里山の味”という商号をとられたのも2015年とお聞きしました。
とても素敵な名称ですね。
もうちょっといい名前がないかなと思ってですね、色々考えました。
まぁ、加工場がある地域は町の中心からちょっと外れてますので、ここら辺にふさわしい名前かなって思ったんです。
――ちなみに、以前から今のような調理のお仕事をされていたのですか?
前はね、農業をしながら、27年間ずっと民生委員として社会のための人生を送っていたんですよ。
民生委員の仕事はね、人の家を訪問したりして本当に時間を取るんですよ。行事も多くて。
それと、人権擁護委員や校区の婦人会会長や更生保護女性会員、特老の評議員等…もう数えきれないほど色々とやりました。
それで農業の方はね、野菜を作って市場に出荷していたんです。
――今のようにお餅等を作られるようになるのは、その後からなのですね?
1番最初にお餅を作るようになったのは1974年でした。
その年は、弟のお嫁さんが腎臓を患って京都で移植手術をしたんです。
私は看護婦未習いをちょっとだけしたことがあったので、その当時、子どもはまだ小学4年生と5年生だったんですけど、家族をさつま町に残して看病で京都の府立病院に行ったんですよ。
40日間の看病で大変だったんですけど、1ついいことがあったんです。
府立病院より北の出町通りあたりで朝市をやっていたんですよ。
もう弟のお嫁さんも病気が良くなったから、朝市に行ってみたら、突きたてのお餅が本当に飛ぶように売れてて。
それでね、これならさつま町でも売れるかもと思って、帰ってきてから餅を出すようにしたんです。それからですね。
――毎日、お餅等の調理・加工をされて納品して、薩摩のさつまのセミナー等にも参加されて、お忙しく過ごされていらっしゃいますね。
今のような生活リズムで、本格的にやり出したのは2年前の2020年頃ですね。
それまでは、農業以外の社会のための活動も忙しかったのだけど、若い人たちに譲っていこうと思って、少しずつ色々な係を辞めていったんです。
そしたらなんかね、タイミングよく薩摩のさつまが2020年に始まって、認証のための実践型セミナーに通うことができるようになったんです。
――認証品のドレッシングは何がきっかけで作られ始めたのですか?
元々ドレッシングを作り始めたのは、役場の農政課によるさつま町農産加工懇話会が発足し、そこで商品として完成して、それが元でふるさと納税の返礼品に登録することができたんです。
そしたら、今度は、薩摩のさつまが始まって、認証をいただくことができたんですけど、ほんとに皆さんが助けてくれてね。
なんか、もうびっくりすることばっかりなんですよ。
神様がね、してくださるような(笑)
――それでは、認証品のにんじんドレッシングのこともお伺いさせてください。
元々は懇話会がきっかけで作ることになったということですが、そのこだわりや特徴を教えていただけますか?
材料は基本的に地元産の良いものを使っていて、全部手作りです。
無添加ですし、安心して食べていただけることにこだわっています。
懇話会では、外部の先生をお招きして基本的なドレッシングの作り方を教わったのですが、特に野菜の分量は試行を重ねて作った結果なので、今では自分の味になっています。
その中でも、お酢にリンゴ酢を使っているのですが、材料にも生のりんごを使っているのが特徴で、にんじんの甘みの他に、まろやかな果物の甘みも活きたドレッシングになっていると思います。
――作られているドレッシングは、認証を受けているにんじんドレッシングの他に、しいたけドレッシングも作られていますね。
今回の認証品ににんじんドレッシングを選ばれた理由はあるのですか?
懇話会の講習では、一人ひとりが同じ商品にならないように違うものを作らなければいけなかったんです。
それで、私は自分でシイタケを栽培していたから本当はしいたけドレッシングを作りたかったんですけど、別の方がシイタケドレッシングを作りたいって言われていたから、自分は人参もいいかなと思ってシイタケを止めたんです。
そしたら、本当に忘れもしないですけどね、子どもたちが「母ちゃん、人参はお肌にいいって言って、今の若い人たちに人気があるよ」って言ってくれて、すごく嬉しかったんです。
それで、にんじんドレッシングを作っていたら、今度は、そのしいたけドレッシングを作っていた方から「久徳さんがしいたけを栽培しているから、しいたけドレッシングを譲りますよ」って言ってくれて。
もう私は嬉しくてね。
その話を懇話会の会長さんへ話したら、両方とも作って良いよってなって。
それで今は、にんじんとシイタケの2種類のドレッシングを作っているんです。
――2022年度はしいたけドレッシングも認証を取ろうとされていますね。
にんじんドレッシングと兄妹のようなしいたけドレッシングもご紹介できる日がとても楽しみです。
一方で、にんじんドレッシングは個人的にも使わせていただきましたが、酸味がマイルドで、素材がぎっしり詰まっていることに驚きました。
液体というよりも、食べるドレッシングという感じですね。
お聞きしたお話から、サラダの他に、肉料理やカルパッチョ等にも合うというのも納得できます。
それでは、もう一つお聞きしたいのが未来についてのお話です。
薩摩のさつまには次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれています。その”未来”という今後に対して、さつま町や子どもたちがどうなってほしいといった想いはありますか?
みなさんが安心して暮らせるさつま町であってほしいっていうのが1番の願いですよね。
何代経っても安心して暮らすことができる町であってほしいです。
それから、可笑しいけど私の理念っていうかですね。
生きる力を、みんなそれぞれ将来に向けて蓄えていかないといけない。
それを私は子どもが小さいときからずっと考えていました。
――“生きる力”ですか?
そう。生きる力。
もちろん、人に助けてもらうのは良いんだけど、自分で生きる力を身に着けるっていうのが大事だと思うんです。
例えば、学校で勉強は何のためにするのか、と聞かれれば、私は生きる力をつけるために勉強します、とかね。
それは私の理念っていうか、もう子どもが小さいときからずっと思ってます。
だって、生きる力を持ってないと、生きられませんよね。
みんなそれぞれにしても誰かに頼るばっかりではなくて、自分で少しでも生きる力を身に着ける。
そのために、学校に行くと思うんですよ。
世の中も知らないといけませんので、少しでも気になるものがあれば自分の足で直接見に行ったりね。旅行するのも大事だし。
そんなことも考えますよね。
――普段から精力的に色々な場所へ出向かれていらっしゃいますし、SNSでも積極的に発信されていて、とても刺激を受けています。
元からあちこちへ行かれる方だったのですか?
それはね、もう恵まれてるっていうか、民生委員とかで自分の生活では絶対に行けない経験をさせてもらったことがあったからかもしれません。
その当時は研修旅行が沢山あって、北海道から沖縄まで色々なところへ行かせてもらったんですよ。
そうすると見えてくるものがありますから、そこの土地を自分の足で踏むとか、その経験をするっていうことが大事ですよね。
――経験することが大事。本当にそうですよね。
結果も大事なのですが、経験ってその過程が意味を成すというか、過程があることでそこから得られるものの深みが変わってくるように感じます。
だから、子どもたちには、何のために勉強するのかって言ったら、生きるために勉強してほしいんです。
自分はまあ、幼い頃はそんなつもりで学校に行っていたわけじゃなくて普通に過ごしてきましたけど、今から生きる人はやっぱり生きるために勉強しないといけない。
――学問に限らず、人生の経験を含めた広義の意味での勉強ですね。
そういった点では、勤勉さと誠実さ、もしかすると謙虚さも比例するように感じました。
それは芯の強さと優しさを併せ持った人間力にも繋がるようにも思います。
皆さんとお互いに仲良くはしないといけないですよね。
だけど、その中で1つの立ったものが自分にないと生きていけませんよね。
その立ったものを得るには、生きる力がいっぱい必要になってくると思うんですよ。
経験だけじゃなくて、体力的なものもあるし、知識のこともあるしね。
だから、人並みに生き抜くためには生きる力が大事かなって。
私はそれをね、いつから思うようになったかはわからないけど、本当にそれがね人間の1番の目標だと思うようになったんですよ。
生きる力が。
――どうやったら生きる力を身に着けられるか答えを求めるよりも、それ自体を自分で考えることが、そもそもの生きる力に繋がる、ということですね。
そのためにも勉強しないと。
真面目に勉強して、いろんなことを吸収して経験して。
それが生きる力を養うことに繋がるんじゃないかなって私は思います。
――本当にそうですね。
今は、より多様な世の中になって、価値観も様々、予測できない社会情勢もある時代で、問いを自ら見つけて解決に導く力が必要だと思います。
それが、生きる力ですね。
さらには解決の過程を描くことができて、人と共に解決の道を歩むことができる力。
それがこれからは特に必要だと感じます。
里山の味には「生きる力」にこだわれた久徳さんの想いがエッセンスとして入っているのですね。
今日は貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)
認証品のご紹介
里山の味『にんじんドレッシング』
無添加にんじんドレッシングは物産館で販売、学校給食やふるさと納税返礼品にも採用され、幅広い世代から好評。自家栽培のにんじんをすりおろし、明るい色そのままに、里山の彩りを味わってください。
一.農家に嫁いで61年。子育てが一段落した後「里山の味」を商号に食品加工を起業。自家栽培のにんじんをふんだんに使用した無添加ドレッシングを製造しています。
二.畑を耕すトラクターに乗り始めたのは80歳になってから。79歳でSNSを覚え、ドレッシングのPRやフォロワーとのやりとりに豊かな人生を過ごしています。
三.里山の味では無添加にんじんドレッシングだけでなく、私自身も皆様に愛されています。「やるかやらないかは自分次第」をモットーに生涯現役で挑戦し続けます。