拝啓から始まるお便り。地域ブランドの立ち上げとその想い(後編)

前回までのエピソード
鹿児島県北部の内陸に位置する町、さつま町がお薦めする逸品を集めた地域ブランド『薩摩のさつま』。
その商品が生まれた背景にあたる作り手、風土、歴史といった土地が持つ豊かさもお届けするインタビューシリーズ。

最初は、認証品の作り手ではなく、ブランドを立ち上げから牽引されている堀之内力三さん(堀之内酒店 店主/薩摩のさつまブランド推進協議会 幹事長)のお話を前編・後編に分けてお届けします。

町の商工会青年部に入ったことをきっかけに、商工会主催の弁論大会へ出場し、鹿児島県大会、九州大会、そして全国大会へと勝ち進むにつれて、合併したての町で人や物事が繋がっていく感覚を肌身で感じとったという堀之内さん。

それから、商工会の活動でも夏祭りや町の色々なイベントを自分たちで企画し、形にしていく中で、徐々にまちおこしをしたいという想いが出てきたそうです。
そんな中、地域ブランドが立ち上がりますが…


堀之内力三さん(以下省略)
自分たちでイベントを企画して、形にしていく中で得た成功体験があったからなのか、だんだんこの町に対して何かしていきたいと思っていたときに、農協さんが『薩摩のさつま』を独自のブランドとして立ち上げられたんです。

それをニュースで見たときに、すごくいい言葉を考えたなって。

薩摩のさつま=鹿児島がイメージできるってすごくいい言葉を考えたなって思ったときに、農協さん以外では、農協さんが『薩摩のさつま』なら自分達は何をするか、って言うんですよ。

なんで、こういう考え方なんだろうって。
なんで、いいブランドができたんだったら皆んなで一緒にそれを押し上げるんじゃなくて、「それはあっちだ」「これはうちじゃない」とかになってしまうんだろう。

会合があっても、何かあれば、あれは役場のすることだよとか、それは商工会だ、農協だ、とか色々そんなことがあるんですよね。

それって足の引っ張り合いだし、町が伸び悩んでいく1つのきっかけなんじゃないのかなって思ったら、もう『薩摩のさつま』で統一すればいいのに、って酔っ払う度に言ってたんですよね。

そうこうして、今から2年ぐらい前にも、飲んでるときにまたその話をしてたら、それを聞いた飲み屋の方が農協の方に言って、農協の方がじゃあ話を聞かせてみろってなって。
その話が農協長までいって、いいことだから皆んなでやっていこうってなったんです。

その後は、商工会や各団体の長も呼んで発足式みたいなのやろうってなったんですが、そこで農協長さんが、皆さん色々言うのではなくて足並み揃えましょうよ、って話してくださったのがスタートだったんですよね。

聞き手:青嵜(以下省略)
――それまでは足並みを揃えることが難しかった中で、そこが実現した第1歩だったということですね。

でも、また別の農家さんも弁論大会で全国大会に行くことになったときに壮行会を開いたんですが、農協の方は来てくれたんですけど、他のところへ案内しに行ったらそれは別のところの話ですよね、ってなってしまって。

やっぱりそういう感覚ですよね。
褒め合い、支え合い、じゃないですけど、そういう感覚をなくしていくことで、これから先の未来に、小さな小さな町が他の大きな魅力的な町に引けをとらない、本当の輝きを作るためには、そういった足の引っ張り合いじゃない、団体間の垣根もない支え合う文化っていうのが、作れたらいいなって。

今、それが1つ1つ形になってきたところなのかなと思っているところです。

――ブランドプロミスに「褒め合い、支え合い、地域愛」とありますが、地域内の結束を意識する言葉のように感じていたので、この言葉はどんな背景があって生まれたのだろう、と思っていました。

実際にブランドが立ち上がり、スタートして半年以上が過ぎた今、互いに認め褒め合い、支え合う文化についてはどう感じていますか?

まだまだそんなにはないんですけど、例えば、その認定品を売ってくださっているフレッシュ熊田さんという地域のスーパーさんが、その活動に共感してくれて、始めたからにはその意味をちゃんと知って販売したいとことで、この間のセミナー(ブランド認証のための実践型ブランディングセミナー)にも来られて、発信もしてくれている。

これは良いことだから、売りたい人たちがいるなら商工会でも販売説明会を募って、みんなでその地域のことを売っていこうっておっしゃってくださって。
こういう感覚、こういう考えの人たちが、もっともっと増えていくことで、色んなことに繋がるのかなと。

でも、団体間の話になってしまうと、まだ皆んな役場がやってくれるなら、そこにお願いすればいいや、みたいな感覚にも見えるところがあるし、もう少しその団体間のところは時間かけていかないといけないかな。

今回のインタビューのように見える形にして伝えていかないと、地域には色々な考え方がある中で誤解を招くこともあるだろうから、そこも丁寧に伝えていかないといけないですね。

――少し話題を変えて、未来のことをお聞きします。
このブランドの特徴だと思うのが、次世代の支援を掲げていることだと思います。なぜ、ブランドの目的に子どもたちへの支援を掲げたのか教えてください。

そこには、やっぱり自分の体験が繋がっていて、レスリングの道に進むために15歳で町を離れて、26歳のとき町に帰ってきて役場へ行ったとき思い出したのが、高校2〜3年生頃のスポーツでいい成績を収めることができたときのことです。

その当時、表彰するから役場に来てくださいと言われて、役場の建物内にある議会にスポーツで頑張った人たちが座って、賞状と景品をもらったんですよね。
垂れ幕とかも出してくれて、やっぱりそのときに、自分たちが町に支えられて大会に行ってたんだなと感じたんです。

ちょっとしたことだったんですけど、それがすごく嬉しくて思い出に残ってて、そういう体験をさせてあげたい。
ブランドで利益が出れば、そこで還元していくことで、これから先の未来にさつま町を巣立っていった子供たちが、いつか故郷を思い返すきっかけにしてくれたらいいなって。

自分自身も、やっぱり1番さつま町に住んでてよかったって思ったのって、そういう、小さいときや町を離れてるときに、自分たちを見てくれてる人たちがいるんだって思えたときと、帰ってきて仕事をするようになってからですね。
離れてても、見てくれる人がいると思える故郷があるって、大事なことなんじゃないのかな。

――故郷という言葉がありましたが、次世代への支援という点で未来の町に対する投資という考えがこのブランドにはあると思います。
この『薩摩のさつま』を通して、さつま町の未来がどうなってほしいといった想いはありますか?

例えば、よく隣の川内市の体育館が立派でいいなと言われているのを耳にする場面があるんですけど、さつま町はさつま町で違った形の魅力を作れたらいいのかなと思います。

全国規模で人口が減っていくのであれば、その減っていく中でこそ、この町の新たな良さが作っていけるのかなと思うところもあります。

そういうときに、皆んながもっと密に連携していないと良い未来は作れないと思うし、優しさを持って人と人との繋がりができていないと、いざ結束が必要になっても結束できないのかなと思って。
どうせ人口が減っていくのなら、量より質ではないけど、いかに密接になれるかだと思っています。

未来は、そういう結束が生まれてるような町になっていればいいのかなって。

――お話にあったように、今後は人口が減ります。
しかも、さつま町に限らず全国規模で起こってくるし、既に起こっている。それを考えると、繋がりがより大事になってきた、繋がろうと思っている。
 
でも、それは一朝一夕では形作れないものだと思うと、その第1歩を町の関係者が一つに集う地域ブランドを通じて、いま始めてるという言い方ができるのではないでしょうか。
 
そういう意味でも、次世代への支援に限らず、未来に繋がるブランドであり活動なのだなと思いました。
 
今日は貴重なお話をありがとうございました。
なんか、この時間だけじゃ足りないくらいドラマがありますね(笑)

飲みにいきますか?(笑)
まだ、ゆっくり飲む機会も実現できてないんで、ぜひ行きましょう。
ありがとうございました。

※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)


前編はこちら。

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